建設産業・不動産業

定期借地権の解説

6. 前払地代方式の概要

(1) 前払地代方式

 

土地所有者

借地人

保証金

・長期の債務
・期間満了時の返還負担

・長期間資金が固定化
・将来返還されるかの不安

権利金

・一括して課税(個人は累進課税)

【事業者の場合】
・減価償却できない
・期間満了時に全額特別損失扱い

前払地代
前受地代

・期間に応じて益金(収入)計上
(期間均等割りした年額分を収入計上)
・但し中途解約時には未経過分を返還する。

【事業者の場合】
・期間に応じて損金(経費)計上

 ※保証金と異なり地主は期間満了時に前払地代を返還しない。
 ※権利金と異なり中途解約時には前払地代の未経過分を返還する必要がある。
 ※前払い分と残額月払い分は、任意に設定可能

 平成17年1月、「前払地代方式」が加わった。
 地主側の前受地代は、権利金のように一時に課税されることなく、毎年均等に収益計上することで課税の分散がはかれる。但し、中途解約時には未経過分の前受地代を返還する必要がある。
 前払地代方式は、

 [1]残額月払い分を公租公課相当額としてその余は一括前払いとする契約も可能
 [2]全額前払いも可能
 [3]一定期間分だけの前払いも可能
 [4]権利金や保証金の併用も可能。

 と様々な選択と組合せが可能なことから、「新定期借地」と呼ばれて注目されている。
 借地人(事業者の場合)は、前払地代を毎年均等に経費化できるメリットがある。
 権利金は期間内に償却ができず、保証金は長期の債権として返還に対する不安定さがあるが、前払地代であれば、期間に応じた費用化ができることでキャッシュフローは明確になる。
 このように地主と借地人双方にメリットのある事業スキームとなる。

(2)前払い方式による事業モデル

前払い方式による事業モデルとしては、

[1] 収益不動産の開発
 開発事業者が、前払地代を支払いオフィスビルや賃貸マンションを開発し、30~35年経過時に建物譲渡特約で地主が建物を買取り、収益不動産を保有するスキームも開発されている。

[2] 全期間一括前払地代方式の定期借地権マンション
 定期借地権マンション用地として、分譲事業者に全期間の一括前払地代方式で土地を貸付ける。地主側は前受地代として、更地価格の60%~70%の資金調達ができる。土地を売却しても税引き後の手残りが77%(譲渡税20%+仲介料3%)であることを考えれば大きなメリットである。
 この資金で分譲される定期借地権マンションの一部を購入すれば、等価交換と同じく無借金で賃貸経営が実現する。無借金経営の安定性は抜群で、前払地代への融資も開かれ販売ネックも解決されている。前受地代の期間均等収益は、マンションの減価償却費と自己借地権部分の取得に当てた前払地代(事業経費)で実質的には相殺される。さらに等価交換との決定的な違いは、等価交換は土地が共有になるため将来の土地の処分性、再建築に問題がある。この方式は土地を共有するわけではなく、定期借地権が終了すれば確実に土地は戻る。


[3] 一括前払い方式を活用した等価交換事業
 地主は50年分の地代を一括して前受した資金で、定期借地権付分譲マンションの一部を購入することで賃貸マンション経営を実現できる。


[4] 全期間一括前払地代相当額を権利金で授受する方式
 前受地代が土地価格の50%超となれば、定期借地権設定の対価として権利金で授受する方式も考えられる。権利金に対しては土地譲渡税が20%かかるが、前受地代のように期間均等収益計上の煩わしさがないので運用自由度が大きくなる。事業用資産の買換え特例が活用できれば、譲渡税の圧縮(繰延べ)ができる場合もある。


[5] 戸建ての前払地代
 戸建事業は宅地開発費がポイントになる。保証金の一部を造成費に当てることが多かったが、保証金の余剰が少ないと将来の返還が不安となる。造成費相当を前受地代で受取る方式とし、原状回復保全の保証金を組合せる方式も考えられる。


【留意事項】
 前払地代であっても借地借家法11条の地代増減額請求権の影響が出る可能性がある。将来、経済状況の変動などを理由に、契約時に支払った前払地代の減額を求めるなどの問題が生じる可能性には留意すべきである。

※借地借家法の定期借地権にかかる法解釈などにつきましては、制度所管官庁の法務省までお問い合わせいただきますようお願いいたします(令和5年7月5日注記)。

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