建設産業・不動産業

定期借地権の解説

10.住宅購入者の視点

(1) 定期借地住宅のメリット

 定期借地による住宅分譲は平成5年から始まり、バブル崩壊後とはいえまだ地価が高かったことから、定期借地による住宅取得はたいへん注目を浴びた。定期借地住宅には次のようなメリットがあるので、現在でもその需要は戸建、マンション共に大きいものがある。

[1] 住宅取得コストが大幅に下がる。
 
土地所有権住宅価格に対して、戸建は60%前後、マンションは80%前後が定期借地住宅価格の平均的なイメージになる。そして、土地の広さ・建物の広さも所有権住宅よりはるかに広く、住宅取得コストが安い上に良質住宅が購入できる点が評価されている。
 定期借地の一時金(保証金・権利金等)と建物価格を加えた購入価格は、戸建では所有権住宅価格の40%~60%未満が全体の61%を占め、価格が70%未満は全体の88%になる。マンションでは所有権住宅価格の70%~80%未満が全体の36%を占め最も多く、価格が80%未満は全体の54%になる。
※戸建の所有権分譲住宅の敷地面積と住宅面積は定期借地住宅に比べると小さいことから、定期借地住宅で供給される敷地面積を所有権土地価格に換算した修正所有権価格との比較。

 

[2] 敷地面積が広く、住環境が良好な分譲地となる。
 戸建の敷地面積は平均222m²あり、土地所有権住宅の平均128m²の1.7倍にもなる。バブル崩壊後の地価の下落と安定化で所有権住宅の価格も下がってはいるが、120m²前後の狭小敷地で分譲される物件が多い。今の生活に車は必需品のため、駐車場を1台分でもとれば庭などは全くとれず、敷地の広さは定期借地の大きな魅力になっている。
 敷地面積が200m²を超える物件は全体の58%を占めている。土地が広いことで、ゆったりした宅地割と植栽計画が施された、住環境の良い分譲地が供給されている。定期借地住宅であれば倍の土地の広さが実現し、ライフスタイルとしても庭づくりやガーデニングなどの趣味の実現、ペットも飼いやすい庭付き住宅、広い庭ではバーベキューもできるなどの魅力が生まれる。
 

[3] 延床面積が広く、良質な住宅取得ができる。
 土地の取得コストが大幅に軽減し、さらに敷地面積が広いことから、住宅延床面積が広くなっている。土地取得コストが浮いた分を建物に回そうという考えが強い。
 戸建の延床面積は平均125m²あり、所有権住宅の平均99.6m²の1.25倍ある。マンションでは専有床面積の平均は86.3m²あり、75m²~90m²未満が全体の38%を占め、100m²以上も21%を占めている。地域別には、中部圏が最も広く93m²、首都圏が88m²、その他地域が82m²、近畿圏が79m²となっている。戸建、マンションともに、住宅の広さの面からも良質な住宅取得が実現できる。
 

[4] 契約期間50年で見ても住宅取得コストが軽減できる。
 所有権住宅に比べ、定期借地権の契約期間50年にわたるコスト負担も大きく軽減し、定期借地が生み出す経済的な余裕は、豊かなライフスタイルの実現を後押ししている。
 地代と土地公租公課が不変など、限定条件のもとで下に簡単なシミュレーションをした。購入時の取得価格は53%、ローン期間のコスト負担は66%、50年間のコスト負担でも71%となり、経済的な負担が軽いことを示している。


■定期借地住宅の50年にわたるコスト比較
(前提条件)
・土地 60万円/坪×敷地面積60坪=土地価格 3,600万円
・建物価格は2,600万円 ・借入条件は金利3.00%
・期間35年とし自己資金はゼロ
・定期借地権の賃貸条件は
 [1]保証金 700万円(土地価格の19.44%)
 [2]月額地代 3.5万円(年間地代の42万円は土地価格の1.17%)

 

修正所有権価格

定期借地住宅価格

割合

取得価格

62,000,000

33,000,000

53.2%

借入金

62,000,000

33,000,000

 

借入金年間返済額

2,863,284

1,524,000

53.2%

土地公租公課(年額)

86,800

 

年間地代

420,000

 

年間支払額

2,950,084

1,944,000

65.9%

ローン期間の支払額

103,252,940

68,040,000

65.9%

50年間の支払額

104,554,940

74,340,000

71.1%


[5] 良質な住宅分譲地の魅力。
 戸建の定期借地分譲は広い敷地で供給されることから、一般的な所有権戸建住宅よりはるかに緑豊かな庭のある良好な住環境が形成される。定期借地住宅の魅力には、購入時の価格の安さだけでなく、ゆったりとして美しい住環境で居住できる点も大きな魅力である。
 ランドプランニングにも工夫がされ、土地利用計画には住民全員が利用できる共有地空間としてコモンスペースを設置したり、宅地と共有地の維持管理については、管理主体とその費用負担を明確にした住民協定などのタウンマネジメント手法を導入するなど、住環境とともに地域コミュニティ-の継続的な維持についても工夫された計画が数多く登場している。

[6] 旧法借地制度と異なり更新料などの煩わしさがない。
 旧法の借地制度は、正当事由制度と法定更新制度により借地人にたいへん優位な制度となっていたが、土地の返還をしなくて良い反面、借地契約を継続する上では極めて煩わしい更新料や各種承諾料の支払いが必要となり、これがしばしば双方のトラブルの原因になっていた。
 契約更新料は、借地人が地主と円満な話合いのもとで契約を合意更新する場合に、更新料を地主に支払うものである。法律上は必ずしも支払う必要はないが、借地人側としても期間が満了しても土地を継続使用できるということから、更新時に一定の金銭を支払う慣行ができた。しかし、契約更新は20年ごとに巡って、更新料の額は借地権価格の5%前後であるため、地価が上昇すれば更新料も上昇するので、その都度トラブルになりかねない。その他にも建替時の建替え承諾料の支払い、借地権を第三者に譲渡する場合の譲渡承諾料など、借地人にとっても煩わしいことが多かった。
 定期借地制度は、建替え承諾料、借地権の譲渡承諾料などを一切不要とする運用が定着しているので、安心して借りることができるのである。

(2) 定期借地住宅のデメリット

 借地人のデメリットとしては、[1]土地を返還しなければならない [2]土地が値上りしてもその利益を得ることができない [3]将来の地代改定の心配 [4]中古で売却ができるかの心配 などがある。

※借地借家法の定期借地権にかかる法解釈などにつきましては、制度所管官庁の法務省までお問い合わせいただきますようお願いいたします(令和5年7月5日注記)。

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