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SDKや生成AIを活用。ルーキーならではのアイデアとツール活用が光ったPLATEAUハッカソン

「PLATEAU Hack Challenge 2023 for ルーキー」レポート


2023年6月24・25日、ルーキー向けと銘打った3D都市モデル・PLATEAUのハッカソンが行われた。「初めてPLATEAUに触れる人」「開発イベントに初めて参加する人」などに向けたものづくりイベントだ。2日間の成果発表で生まれた作品の成果をお届けする。

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大内 孝子(Ouchi Takako)
編集:
北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
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「ovice」にて、フルリモートで行われたハッカソン

今年も「PLATEAU Hack Challenge 2023」が始まった。「PLATEAU」は国土交通省が進める2020年にスタートした都市デジタルツインの実装プロジェクト。

2021年、2022年と、データ・カバレッジの拡大や開発ツールの整備とともにハッカソン「Hack Challenge」を展開。今年はその4年目だ。まず6月に行われたのが「PLATEAU Hack Challenge 2023 for ルーキー」。30名超の参加者がチームを組んで、アイデア出しからプロトタイプ作成、デモを行った。会場はメタバースプラットフォーム「ovice」上でフルリモートでの開催となった。

成果発表も「ovice」上でフルリモートでの実施となった。ファシリテーターは一般社団法人MAの伴野智樹氏

ハッカソンは2日間にわたり行われ、ボッチソン(単独参加)によるチームも含め11チームが最終プレゼンにエントリーした。審査員による審査の結果、チームRise of spiderの「蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」がグランプリを獲得した。参加者の相互投票によるオーディエンス賞は、チームVRChatterの「FreestyleMetaverse NAGOYA」が受賞した。

チームRise of spiderの「蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」がグランプリを獲得

グランプリは「蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」

今回の審査は、「PLATEAUを活用したプロトタイピング」を前提とし、

(1)3D都市モデルの活用
(2)アイデア、独創性
(3)完成度

が基準となる。

審査員は、遠藤諭氏(株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員)、伊藤武仙氏(株式会社ホロラボ Co-founder 取締役COO)、内山裕弥氏(国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐)の3名。

見事、グランプリを受賞した「蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」はリアルな3D都市モデルPLATEAUの世界を楽しみたいというコンセプトで、渋谷の4つのエリアを舞台に蜘蛛忍者となり街を駆け、ゴールまでのタイムを競うゲームだ。

蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」(Rise of spider)

Unreal Engineにスパイダーマンのモデル(Spider Man Style Project for UE4)を読み込み、渋谷エリアのPLATEAUの3D都市モデル(LOD1、LOD2 *1)を使用している。

3Dでの重いデータを使った共同作業の難しさもあったというが、チームメンバー6人、そのうち3人で調査・実装、さらに3Dモデルの担当、コンセプトアートの作成と作業を分担し進めていったという。

<注>
*1:LOD(Level of Details)とはCityGMLで定義している詳細度のこと。

実装の流れと画面遷移

スパイダーマンのアセットに糸を吐くなどの動作も用意されており、それをうまく活用している。基本的には建物やオブジェクトを対象に糸を吐く仕様になっているが、読み込んだ渋谷エリアの場合、高い建物が少なく、地面を移動することになってしまうため、Unreal Engineのステージ上に蝶のオブジェクトを配置し、それに対して糸を吐くという形にしたという。

また、LOD2のデータを用いたことで建物に設定されているコリジョン情報を活用し、壁を伝って歩くなどの動作もできるようになっている。ぜひ、デモの動画を参照していただきたいが、非常に滑らかな、ダイナミックな動きが実現されている。

受賞理由として、審査員の3人はその完成度を挙げた。「スパイダーマン的な見え方を楽しめることが素晴らしい」(遠藤氏)、「3D都市モデルを使ってリアルではできないことをしたいというコンセプトがよい」(伊藤氏)。また、伊藤氏はオープンデータを使って短期間でここまでプレイアブルなものに仕上げている点も評価している。内山氏も一番の評価ポイントは「誰もが考える『3D都市モデルを使ってやってみたいこと』をしっかり実装している完成度の高さ」とし、細かなインタラクションの作り込み、さらにPLATEAUの持つ都市スケールのデータを活用したソリューションである点を挙げている。

VRChatで"現実ではない"観光スタイルを楽しむ「FreestyleMetaverse NAGOYA」

オーディエンス賞に輝いた「FreestyleMetaverse NAGOYA」は、バーチャルSNSプラットフォーム「VRChat」を舞台にゲームをしながら都市観光を楽しむ作品。たとえば、名古屋なのでエビフライが空に浮いていたり、ナナちゃん人形が立っていたり、といった具合だ。飛行機や気球などが用意され、徒歩だけではなく空から街観光を楽しむこともできる。

FreestyleMetaverse NAGOYA」(チームVRChatter)
徒歩観光と空中観光が楽しめる

この「FreestyleMetaverse NAGOYA」は事前にメンターに取材した際も、数人が気になる作品として挙げていた。

仕組みとして何をしているかというと、PLATEAUのデータをUnityに読み込み、アセット類を配置し、VRChatにワールドとして書き出している。観光地の建物情報を表示するほか、飲食店の上空にご当地グルメ情報を配置しアイテムとしてゲットできるようになっている。また、観光地の方言情報などもクイズで楽しめる。この環境は、VRChatの中で実際にプレイできるワールドになっているという。

審査員の伊藤氏はプレゼン後の質疑で、VRChatの世界を使ったコンテンツとしての出来の良さを評価したが、VRChatに慣れ親しんだメンバーは6人中3人程度であり、それを受け、「(専門性がなくても)一般の人がPLATEAUのデータを使って、地域でやりたいことをやるときのよい雛形となるのではないか」とコメント。

内山氏も「これまでPLATEAUと、VRやメタバースをいかに活用していくかと考えてきた人は多いが、うまく形にしてある」とその着想と完成度を評価。ちなみに2023年度、国土交通省でもさまざまな企業と組んでコンシューマ向けのメタバースアプリを出そうと進めているという。

面白コンテンツから社会課題解決まで

その他、コンテンツとして楽しめる作品から社会課題を解決しようとするものまで、さまざまな作品が登場した。以降、紹介していこう。

「建物ブロック崩し」(ぼっちそん)

新宿の建物をブロックに見立てて配置。赤いボールが2回当たるとブロック(建物)が消える

PLATEAU、Unityを使ったブロック崩し。新宿エリアのデータを読み込み、高さの情報を
ブロック崩しのゲーム要素に取り入れるという発想だ。

ただ実装にいたっては、高さ情報を動的に使おうとすると、すべてのオブジェクトにスクリプトを追加せねばならず、動作が重くなりゲームの体をなさないという点が課題として浮上したという。デモでは、都庁をターゲットに赤いボールが2回当たると約260mの都庁が倒れるという仕様にしている。

内山氏はPLATEAUの属性情報も使って作品にしようとしている点を評価し、プログラミングの工夫などでなんとか課題をクリアし、仕上げてほしいと述べた。また、「街の大きさ、すごさを共有できた」と伊藤氏。遠藤氏も、街をおもちゃにしてしまうという発想にシンパシーを感じると語った。

フォーナイトで巡るバーチャル東京」(ぼっちでUEFN東京散策)

PLATEAUの3D都市モデルデータを使って、フォートナイトで東京散策ができないかと着手するも環境構築などにつまずき完成には至らず。しかし、視聴者も含め多くの共感を生む発表となった。

PLATEAU for WebXR」(PLATEAU for WebXR)

参考資料

PLATEAU for WebXR

実際に渋谷エリアのデータを読み込んだところ(デモではブラウザ表示)

WebXR Device APIを使って、PLATEAUをWebVRで見られるようにしようというプロジェクト。WebXR Device APIとは、Webブラウザ経由でスマートフォンやXRデバイスの入出力にアクセスできるAPI。Apple Vision Proに対応予定とされ、いま注目されている。

 本作品は、WebXR Device APIを叩き、React.jsおよびThree.jsを使ってモデルをレンダリングするという仕組み。モデルのサイズが大きすぎるとブラウザがクラッシュしてしまうなどの課題があったが、何とか回避しつつ、2日間でここまで仕上げたという形だ。

 遠藤氏は「コンテンツを作るだけでなく、ツールを作ることも重要だ」と好評価を示した。内山氏も、ゲームエンジン以外のツールを使ってPLATEAUデータの扱う際のナレッジの構築・共有にぜひつなげてほしいと述べた。

VR謎解き街歩き in 京都祇園」(ぎおん)

使用するマップ上の決められたルートを巡る。問題数は6つ、正解すると「抹茶・パフェ・わらび餅」が獲得できる

京都祇園の街を、次々と出てくる謎を解き明かしながら街歩きをする謎解きゲーム。Unityに京都祇園エリアのデータ(LOD2)を読み込んでいる。Meta Quest2対応。

最初は2択の問題としていたが、簡単すぎたということで4択に変更。途中に配置したヒントを探すような仕掛けにした。

答えがわからない場合、まわりを散策すると所々にヒントがある

伊藤氏は、VRで一人称で見る場合テクスチャの質がセンシティブな問題になってくるが、その点はVRコンテンツにおける共通の課題だとする。内山氏も同様に、コンシューマ向けのコンテンツにLOD2のデータを活用する際に付随する課題だと捉えている。この課題に対しては、写真を使うなど、道や建物の雰囲気を出す工夫が1つでも入ると改善されると思われる。

「働く3D勇者~街中のものを治して、レベルを上げよう、ハイスコア目指そう~(南の島)

エイリアンが建物を壊したり、修繕したりする

沖縄県那覇市を舞台にした勇者(エイリアン)のお掃除ゲーム。普通に街に暮らしていると、なかなかその街の維持管理の必要性が実感できなかったりする。そうした街の維持管理の問題、まちづくりの課題の共有や合意形成のために考えたコンテンツだ。

遠藤氏は、社会課題の共有に有効という3D都市モデルの特性を捉えたアイデアだと評価する。今後はもう少しゲーム性を加えるなど、社会課題とゲームをうまく組み合わせてほしいとした。伊藤氏も「壊す」と「修繕する」という相反する行動がどう勇者の中に共存するのか、ゲームとしてどうしたら面白いアイデアになるのかブラッシュアップしてほしいと述べた。

「ものはこび」(VertiRoute)

参考資料

ものはこび

デモでは出発地点に渋谷蔦屋(7F)、ガスト渋谷駅前店(7F)を選択。実行すると、2つのビル間を移動する軌跡が表示される

この作品は、PLATEAUのデータ内にEPSGコード6697として建物の高さ情報が明記されていることが出発点となっている。

建造物の高さを考慮し、配送者を模したモデルが移動するコンテンツとして発表した。たとえば「隣接するビルまで徒歩1分」と地図アプリで表示されても、高層ビルであれば上下移動に時間を要してしまう。そこで、実際の高さを加味して、移動時間を視覚化しようというもの。特に、物流における再配達などの時間ロスは大きな社会問題となっており、都心であれば、ビル間の移動もシビアな課題だ。

完成度という点で、デモでは2日間でできることを見せたというところだが、今後エレベーターの待ち時間の実装や高低差が配送時間に与える影響などを数値化したいという。人型オブジェクトを数千人レベルへ増やすことなど、物流を意識したシステムを目指す予定だ。


新たな物流ツールの可能性が広がる

伊藤氏は社会課題をしっかり捉えているという点を評価した。遠藤氏も、ストレートに課題を捉えたものであり、すでにいま存在していてもおかしくないサービスだとした。

「空間ディスプレイ」(空間ディスプレイ)

PLATEAU SDK for UnityのEditor上で表示

PLATEAUの空間データを用いて、不動産情報を自由な視点で確認できるというもの。システム構成としては、PLATEAU SDK for Unityを使って店舗、災害、公共設備といった空間属性情報を表示し、Photon Fusionというプラットフォームを経由し複数の遠隔操作を可能とする予定だった(コンテンツ内の視点の移動にはOculus Integration UIを用いる)。ただし、今回は時間切れでPLATEAU Unity UnityのEditor上での表示までとなっている。

内山氏はPLATEAUの属性情報をエンドユーザー向けのコンテンツに生かそうとしている点を評価した。

「メタバース遠足 ~ お前の土産は、デジタルデータだ!! ~」(UNITECH LAB.)

「メタバース遠足」システムのイメージ

「ヒト・時間・場所を選ばない“新時代の自由な遠足”」というコンセプトでメタバース空間における遠足体験を提供する作品。高齢化社会での物理的な移動が難しい場合や事前の下調べに活用するイメージだ。

名所を巡るミッションが与えられ、クイズに答えるとお土産をゲットできる

気軽に体験できるよう、実行環境をブラウザ(スマホ、PC、VR)ベースとしているため、PLATEAUの3D都市モデルの調整をかなり行っている。今回、そこが最も苦労した点だが、それでもブラウザベースでのメタバースとVR、ARの融合には大きな価値があるという。伊藤氏は、そのメタバースとVR、ARの融合を目指している点を大きく評価した。

「都市のかたち変遷シミュレーション」(Fuji)

使用するモデルの詳細

大学院の研究室(地域計量)のチーム参加による作品。居住地変更のコストが0となった未来で、いつでも好きな建物に好きなだけ増築して入居できるようになる。「そうなったとき、未来の都市の姿はどうなるか」をコンセプトに、人のたくさんいる建物を好む度合をパラメータとして居住地を選択するモデルを使って、街の変化をシミュレーションする。

 CityGMLから建物ごとの高さと中心座標(ポリゴンから算出)を取得し、それらを初期値としてモデルに入力する。Pythonでシミュレーションを行い、一単位時間ごとの建物の高さを出力する(次の図の左)。その高さの変遷をUnityで可視化しようとしたもの(次の図の右)。この可視化の部分は、この時点では未完だ。

人が集積を好むと仮定した場合、建物の高さがさらに高くなっていく(新宿)。一方、集積を嫌って建物が低くなっていく(板橋)

遠藤氏は都市の魅力、変遷をこういう形で示すのは面白いと好評価を示した。伊藤氏は、建築年などのパラメータを加えることでもっと現実に近い、面白いものになるのではないかとの感触を示した。

生成AIを積極的に活用したルーキーハッカソンが示すもの

今回、グランプリは「蜘蛛忍者になって東京を駆け巡れ!」の受賞となったが、そもそものスパイダーマンのアセットの出来がよかったのではないかという議論があった。伊藤氏が講評にて明らかにしていたが、ただ、そうしたアセットの存在を知っていること、知識・情報の収集、活用のノウハウという面も含めての結果を評価するという形に落ち着いたという。

この点は、ハッカソン1日目の終了時にメンター取材の際に指摘されていた話にもつながっており、興味深く感じたところである。メンターの高橋忍氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社)は今回のルーキーハッカソンの印象を「PLATEAU SDKなど国土交通省側が整備しているツールもそうだが、ChatGPTなど生成AIを積極的に使っている」と言う。「~~のUnityのコードを出力して」とChatGPTに作成させるのだ。

有年亮博氏(株式会社シナスタジア)もその点で、今後、ハッカソンとアイデアソンの垣根がだんだんなくなっていくのではないかと述べた。いままでは、ハッカソンは技術的なことがわかっている人が参加するものだったのが、アイデアソンレベルの感覚で、アイデアさえ言語化できればそれが数時間でデモができるという形になる。そうなると、本当にさまざまなアウトプットが期待できるということになる。

竹内一生氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社)はアイデア出しでも、自分だけではなく、もう一人自分がいるという感覚でChatGPTが使われていくのではないかとする。

より良いものを作る助けになるものがすでに世の中にあれば、うまく使って仕上げていくことで大きなアドバンテージになる。ルーキーハッカソンでそれが見えたことも面白い。

ただ、フルリモートのチームで3D都市モデルという比較的容量の多いデータを扱う共同開発には、やはりある種のノウハウが必要になる。そこはルーキーハッカソンには少々ハードルになったのかもしれない。ハックに慣れていないと言ってしまえばそうなるが、特にゲームエンジンベースでコードを共同編集する難しさに詰まってしまうチームもあったと、やはりメンターで2日間各チームを見ていた久田智之氏(株式会社アナザーブレイン 代表取締役)は言う。

「ゲームエンジンを決める必要はあるが、事前にみんなが同じ開発環境を整えて、リモートで共有しながら開発していくノウハウをレクチャーするようなセッションがあると親切だったのかもしれない」と久田氏は振り返る。とはいえ、「ハッカソン初心者、PLATEAU初心者が2日間、オンラインでの共同作業でここまでのアウトプットを出してきたことは素晴らしい成果」(久田氏)だ。

「この短期間でPLATEAUの技術になじんで作っていく姿が非常に刺激になった。メンターとして一緒に走れて楽しかった」と田中正吾氏(ワンフットシーバス)は振り返ってコメントを述べたが、これは何より参加した全員が感じているところだろう。

最後に内山氏は、「今回のハッカソンだけと単発で終わるのではなく、PLATEAU NEXT 2023はこの後も続いていくので、ぜひ開発を続けて、このあとのハッカソンやアワードにチャレンジしてほしい」と締めた。

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