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子どもから大人まで楽しめる3Dの地図づくり。iPhoneの3DスキャンとPLATEAUでまちを再発見する

「みんキャプクエスト@松山市三津浜2023」レポート

2023年12月2日、みんキャプ運営委員会は、国土交通省、愛媛大学工学部、ASCII STARTUP協力のもと、市民参加型での3D地図づくりワークショップ「みんキャプクエスト@松山市三津浜2023」を愛媛県松山市の三津浜公民館にて開催した。「みんキャプ」は、LiDAR搭載スマートフォンなどで現在の風景を3Dスキャンして、3D都市モデルプラットフォームサービス「toMap」で地図に配置、みんなで共有する活動だ。イベントには松山市内の親子連れや学生など17名が参加し、みんキャプ運営委員会運営委員長の久田智之氏と愛媛大学工学部の学生のサポートのもと、三津浜地区を散策しながら3Dスキャンと地図づくりを体験した。

文:
松下 典子(Matsushita Noriko)
編集:
北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
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みんなでまちの風景を3Dスキャンして地図をつくる「みんキャプ」

立体物や空間を3Dデータ化する3Dスキャン技術は、主に建築、土木、医療、ゲーム、エンターテインメントなどさまざまな業界で活用されている。近年はLiDARが搭載されたスマートフォンもあり、アプリを使って手軽に3Dスキャンができるようになった。

「みんキャプ」は、手持ちのスマートフォンを使って身近な風景やモノを3Dスキャンし、デジタルな3Dデータとして地図にタグ付けしていく活動だ。同じ場所にある建物でも、時間や季節、撮影者によって見え方は変わる。商店街は店舗の営業中と閉店後でまったく雰囲気が違うし、季節やイベントによって各店の装飾やメニューも変化する。その瞬間の状況を3Dスキャンで切り取り、SNSで写真や動画を見せ合うようにシェアするのが「みんキャプ」の面白さだ。もともとは趣味の活動として始まったが、2020年に国土交通省のProject PLATEAUがスタートしたことから、地域の人に3Dスキャンや3D地図づくりを身近に体験してもらう企画へと広がり、街並みや博物館の収蔵物の3Dデータ化などのイベントが全国各地で実施されている。

「みんキャプ」の活動趣旨、PLATEAUや3Dスキャンについて解説する久田智之氏

イベントでは、午前中は株式会社アナザーブレイン 代表取締役・みんキャプ運営委員会 運営委員長の久田氏による「みんキャプ」の活動趣旨や3Dスキャンアプリの使い方を説明。午後からはまちへ出て、各自がiPhoneと無料の3Dスキャンアプリ「Scaniverse」を使って建物や屋内を3Dスキャンする。参加者同士で撮影対象が重ならないように4つのエリアに分かれて“街スキャン”を行なった。

まちを散策しながらiPhoneで三津浜の古民家や商店街を3Dスキャン

iPhoneでの3Dスキャンは、ゆっくりとなめるように空間を撮影するため、知らない人から見るとかなり怪しげだ。地域住民から不審に思われないように参加者には腕章が配布された。また、三津浜地区の住民や商店街へあらかじめイベントの趣旨が説明されており、いくつかの古民家を改装した店や宿泊施設では、店内の撮影も許可された。街スキャンには市職員が同行して建物の歴史や見どころを説明し、参加者たちは「こんな素敵なお店があるなんて知らなかった」と街歩きとしても楽しんでいた。

PLATEAU互換の「toMap」で3Dデータを地図に登録

撮影後はスキャンした3DデータをGLB形式でアップロード用のPCに転送し、PLATEAU互換の3D都市モデルプラットフォームサービス「toMap」で地図上に位置や方角を合わせて登録していく。「toMap」での位置合わせは愛媛大学工学部の学生たちが分担して作業を手伝った。

「toMap」への登録と位置合わせには、愛媛大学工学部の学生たちが協力

イベントのエンディングは、みんなでつくった3D地図の鑑賞会だ。自分たちが”街スキャン”した3Dデータが表示されるごとに歓声が上がり、撮影時の状況を説明したり、どうすればもっときれいに撮影できるのか、などと撮影のコツを話し合うなど盛り上がった。

行政の整備した3D都市モデルに自分たちがまちを歩いて撮影したデータを重ねることで、地域の味わいのある地図になる。日常を手軽に3Dスキャンすることで、観光案内や再開発のシミュレーション、ゲームの素材づくり、旅行の記録などに活用できそうだ。

三津浜駅の3Dデータ
松山市の3D都市モデルと重ね合わせて表示した例
古民家の商店1階部分
歩行者モードで店内を見て回れる
ポスターやお知らせが貼られた掲示板。まちの今の状態を記録できる
観光名所の渡し船も3Dデータ化

イベントに参加した感想として、松山市内の高校教員は「もうすぐ校舎が建て替えになるので旧校舎のデジタルアーカイブをつくりたい。生徒たちにも伝えて、iPhoneで情報を得るだけでなく、情報を発信する側になってほしい」、愛媛大学の博物館職員は「楽しかった。博物館でも開催したい」とコメント。

そのほか「旅行先で使ってみたい」、「大学の研究に3Dを活用しようと思う」、「イベントを通じて三津浜をじっくり散策して、いいお店を知れたのがよかった」、「昔所有していた古民家を解体したが、このような3Dデータで残せたらよかったと思う」といった声が集まった。

まちを舞台にしたイベントの開催は地域の協力が不可欠だ。本イベントでは、松山市のデジタル戦略課とまちづくり協議会が協力し、地域の関係者や住民への説明に当たったという。松山市デジタル戦略課主査の田中愛夕氏は、「すぐにイメージが沸いて興味を持つ人の一方で、何の役に立つのかわからないという人も一定数いた。体験すればこの面白さがわかる」と話す。運営スタッフとして参加したみんなでつくるデジタルツインえひめ代表の兼久信次郎氏は、「一回だけのイベントにせずに、他の地域を含めて継続的に取り組み、松山市全体の3Dデータを残していきたい」と語った。