dt23-05

3D都市モデル、BIMモデル、空間IDを統合した都市開発支援ツールの開発

実施事業者株式会社シナスタジア/大成建設株式会社
実施場所東京都新宿区
実施期間2023年11月〜12月
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3D都市モデル、BIMモデル、空間IDを統合した都市開発支援ツール「PLATEAU TwinLink」を開発。都市開発、都市計画、建築設計におけるプランニングや合意形成、シティプロモーションの円滑化・価値向上を目指す

実証実験の概要

近年、都市空間のデジタルツインを実現するPLATEAUの3D都市モデルの登場に加え、BIMモデル活用の広がりや、多様な地理空間情報のインデックスである「空間ID」の開発など、様々なスケールで静的・動的な空間情報を統合的に扱うための技術的基盤が整いつつある。他方で、これらの新たなデータを活用した実務レベルや市民レベルの具体的なソリューションは未だ登場していない。

今回の実証実験では、「3D都市モデル」、「BIMモデル」、「空間ID」を統合したデジタルツイン基盤を構築し、これを活用することで都市計画の検討や都市開発のプロポーザル、建築設計の合意形成、シティプロモーションなど、まちづくりの各フェーズで利用可能な汎用的な都市開発支援ツール「PLATEAU TwinLink」(以下「本ツール」という。)を開発する。行政担当者やデベロッパーなどのまちづくりの実務を担うプレイヤーが業務で利用可能なツールとすることで、まちづくりの多様なフェーズにおける業務円滑化や価値向上を目指す。

「PLATEAU TwinLink」の周辺施設案内機能画面イメージ

実現したい価値・目指す世界

デジタル庁を中心に2022年から社会実装が進められている「空間ID」については、共通仕様の策定や共通ライブラリのオープンソース化などにより、その活用に向けた技術的基盤が整いつつある。また、国土交通省が推進するPLATEAUの「3D都市モデル」や「BIMモデル」といった地理空間情報に関する取組みも進められているが、実務レベルや市民レベルのプロセスにおけるこれらの活用は限られている。

今回の実証実験では、3D都市モデルとBIMモデル、空間IDを統合したデジタルツイン基盤を用いて、都市開発の領域における新たなソリューションを開発することで、デジタルツインの社会実装を推進する。
具体的には、多様な地理空間情報を複合的に解析することが求められている都市計画、都市開発、建築設計の各フェーズにおける検討、プロポーザル、合意形成、シティプロモーション等で利用可能な機能群をゲームエンジンを用いて実装し、本ツールとして提供する。例えば、エリア全体を俯瞰的に見渡しながら、フォーカス対象となる建築物の設計情報等を閲覧できる機能、エリア内に存在する観光地や公共施設などが確認できるシティビュー機能、周辺施設を選択すると当該施設の概要が表示される機能、周辺施設情報の表示機能、周辺施設情報で選択した施設を目的地として設定しそこまでの移動経路が表示される経路案内機能などを実装する。
また、本ツールでは一般消費者へ不動産販売を行うデベロッパーやまちづくりの現場において住民説明を行う事業者(デベロッパー・行政・まちづくり団体)などのユーザーを想定し、直観的なUI操作やハイクオリティのビジュアライゼーションを行う。

本ツールを活用することによって、不動産販売や住民説明の現場において、模型や映像、パンフレット等を使ったこれまでのプロモーションツールと比較し、一般消費者や一般住民に対して内容をより分かりやすく、魅力的に伝えることができるようになることを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、都市計画、都市開発、建築設計の各フェーズにおける検討、プロポーザル、合意形成、シティプロモーション等での利用を目的としたデジタルツインソリューションとして、本ツールを開発した。3D都市モデル及びBIMモデルで構成されたデジタルツインの高品質な描画のため、開発プラットフォームとしてゲームエンジンのUnreal Engine 5を採用した。また、ユーザーが柔軟にカスタマイズできるようにUnreal Engine 5のPluginとして開発した。

本ツールの機能として、アクセスルートや周辺の混雑状況の可視化、教育・文化施設などの周辺施設情報の紹介をするシティプロモーション機能、フォーカス対象となる施設内の共用施設の紹介をする施設プロモーション機能、デジタルツイン空間内のアセット配置や建築物の色彩変更をするマップ編集機能、公共施設・集客施設等のポイントデータ(以下「POIデータ」という。)、人流データ、気象データの可視化と都市空間解析を行う解析機能を開発した。

シティプロモーション機能は、フォーカス対象となる施設の管理者が施設周辺をプロモーションするために、周辺の観光施設や教育施設などを選定し、各施設の画像や説明などの情報の登録・編集・削除ができる。登録された情報は一般消費者・一般住民(以下「エンドユーザー」という。)に表示され、デジタルツイン空間でフォーカス対象となる施設から周辺施設へのアクセスルートを確認できる。また、人流データを利用して周辺の混雑情報をヒートマップで表示することも可能としている。人流データは外部サーバーからリアルタイムに取得し、空間IDを用いてズームレベル(空間IDのボクセルサイズの定義レベル。数字が大きいほどボクセルサイズが細かくなる)ごとに人流データを管理することで、描画距離が近いデータは詳細に表示し遠くのデータは簡略化して表示するようにしている。これによって同じ詳細度でデータを管理・表示する場合に比べデータ通信量を低減させることができ、ユーザーに情報を表示する際のレスポンス速度の改善を図っている。

施設プロモーション機能は、フォーカス対象の施設管理者が施設のプロモーションを行うために、施設内部にある共用施設の画像や説明などの情報の登録・編集・削除ができる。BIMモデルを活用することでフォーカス対象施設の外観や各階層を切り替えて表示することができ、エンドユーザーはデジタルツイン空間で施設内部の情報を確認できる。また、各階層の設計情報を画像として登録することも可能としており、エンドユーザーは間取りなどの情報を得られる。

マップ編集機能は、施設の管理者が都市空間や内装のシミュレーションを行うために、BIMモデルの色彩の編集やデジタルツイン空間へのアセットの配置ができる。また、都市設備(街灯・ベンチなど)やインテリア(テーブル・椅子・ベッドなど)をアセットとして提供することで、追加データなしに都市空間や内装への設備配置のシミュレーションを行うことができる。

解析機能は、都市計画の検討のために、POIデータ、リアルタイム人流データ、気象データ、都市計画決定情報の可視化・解析ができる。これらの情報を本ツール上で統合して解析し、空間ボクセルを使用することでシステムパフォーマンスを担保した。具体的には、各情報の登録時にデータが属する空間ボクセルを計算しておくことで解析を行う際の検索範囲に制限をかけ、全探索を行う場合に比べて計算量を削減した。また、空間解析のための機能として2地点間の経路解析を行い、解析結果をShapefile形式でエクスポートできることで外部ツールでも解析結果の利用を可能とした。

使用データは、3D都市モデル(西新宿エリアの約1km2が対象)、空間ID、「3D都市モデル整備のためのBIM活用マニュアル」に従って作成したBIMモデル(IFC形式)、西新宿のスマートポールから得られたリアルタイム人流データと気象データ(CSV形式)が含まれる。なお、今回の実証実験では、京王プラザホテルのBIMモデルを作成した。具体的には、既存図面や点群取得等による内部調査を基にAutodesk Revit上で当該建物をモデリングし、IFC形式で書き出した。

本ツールの不動産販売現場における有用性を検証するため、デモとテストユースを実施し、ヒアリング・アンケートを行った。また、来街者に対して街の周辺情報や施設情報を提供する立場であるホテル事業者やビル管理者に対しても近隣施設情報を提供するためのシティプロモーションツール、施設内空間を紹介する施設プロモーションツールとしての検証も行った。さらに、本ツールのまちづくり現場における有用性を検証するため、住民説明を実施する事業者として想定されるデベロッパーや自治体において都市計画を担当する部署、まちづくり団体(エリアマネジメント組織等)へのヒアリングを行い、住民向け説明会での有効性を評価した。

実証立合会でのデモの様子
実証立合会でのテストユース及び質疑応答の様子

検証で得られたデータ・結果・課題

本システムの有用性検証として、不動産販売、プロパティマネジメント、住民説明の業務を行う事業者を対象に各業務に合わせたコンテンツを用意した上でデモ及びテストユースを行い、業務利用における評価を実施した。

不動産販売ツールとしては、不動産の企画から設計・販売までトータルで行っているデベロッパーを対象にヒアリングを実施した。その結果、不動産購入を検討している人に対して分かりやすく情報を伝えるという観点では過半数を超えるポジティブな評価を得ることができた一方、不動産販売の現場で活用するには本ツールで提供できる情報は多すぎるというコメントがあった。具体的には、消費者はたくさんの情報を与えられすぎると混乱する可能性があること、提供する情報は十分に正確さが担保されている必要があることなどの利用上の懸念点・課題が指摘された。その一方で、正確性が高いものの販売の現場では詳細を伝えきれない物件周辺の施設情報などは、消費者が一人で自由に閲覧できるような補足資料としてのサービス展開の可能性があるとのコメントもあった。

またプロパティマネジメントツールとしては、大型複合ビルのプロパティマネジメント事業者へもヒアリングを実施した。その結果、オフィスや商業でのテナントリーシング、イベントの企画・検討での活用の可能性があるという評価が得られた。特に、既存のツールが充実している不動産販売とは異なり、テナントリーシングでは平面図やパンフレットを用いた説明が主流のため、本ツールを活用することで部屋からの眺望のシミュレーションやアセット配置機能を用いた家具・什器等の配置の簡単なシミュレーションを踏まえて、より分かりやすく空間を説明できるとのコメントがあった。

さらに、住民説明ツールとしては、自治体の都市計画を担う部署の担当者を対象にヒアリングを行った。その結果、従来の方法では計画段階の実在しない建物に関する説明が難しかったが、本ツールを利用することで住民が直感的に理解しやすい3Dのモデルを自由な角度で見て、同時に建物規模、用途、アクセス、人流データ等の多くの情報を把握できるため、合意形成が容易になるのではないかとのコメントを得た。

「PLATEAU TwinLink」の経路案内機能(選択した施設までの移動経路を移動手段別に表示)
「PLATEAU TwinLink」の建物内部施設表示機能(施設の詳細が確認可能)
「PLATEAU TwinLink」のアセット配置機能(プリセットされたアセットの配置・移動・回転・削除が可能)

参加ユーザーからのコメント

不動産デベロッパー(不動産販売ツールの検証)

・実際に販売予定の物件が3Dで可視化された状態でのコミュニケーションとなるので、非常に有用だと思う。
・機能が多いことはいいが、表示される情報がかなり多いため関係者の理解に時間を要しそう。
・情報を何度も簡易にビジュアライズできるが、使ってもらうという観点ではUIの改善が必要と感じた。

大型複合ビルのプロパティマネジメント事業者(プロパティマネジメントツールの検証)

・テナントリーシングにおける活用として、従来はパンフレットや平面図での説明がほとんどであるため、テナント申込者に対して、室内からの眺望などより空間を分かりやすく伝えることができる。
・アセット配置を使うことで、共用部の什器の配置検討に使えるだけでなく、敷地でのイベントレイアウトの検討にも使えると思う。

自治体の都市計画担当部署(住民説明ツール)

・3D都市モデルの情報と、BIMの持つ建物内部情報や、建物と周囲の関係の情報などが組み合わさり、直感的に操作もしやすくなっている。
・リアルな3D空間情報を、その場でモードや視点などを切り替えながら説明することができ、市民等も直感的に理解しやすいと感じる。

今後の展望

今回の実証実験の結果、本ツールを活用することで分かりやすく都市の情報を提供できるという観点から一定の評価を得ることができた。特に、プロパティマネジメントや住民説明での有用性及び都市開発や新しい建築物の計画検討のシーンでの活用可能性が示唆された。一方で、エンドユーザーに見せる際の適切な情報量という観点からは課題が残った。

今後は、空間IDや不動産IDなどの活用を通じた、より汎用的で広範囲かつリアルタイム性の高いデータの取り込み及びデジタルツイン上での様々な情報の可視化を検討し、シティプロモーションや住民説明を支援するツールとして行政・デベロッパー等とエンドユーザーとの間の合意形成のスピードアップを目指す。

これにより、模型や映像・パンフレット等を使ったこれまでのプロモーションと比較して、エンドユーザーに対して街の魅力をより分かりやすく伝えられるようになることで、行政、事業者と住民が一体となった街づくりやインバウンドを含めた来訪促進などあらゆる地域の活性化を目指す。