uc22-003

容積率可視化シミュレータ

実施事業者株式会社キャドセンター
実施場所東京都 西新宿地区 / 道玄坂地区 / 八丁堀地区
実施期間2022年4月〜12月
Share

3D都市モデルの活用により都市全体で開発余地を可視化するシミュレータを開発。マンションオーナーや民間事業者による建替え活性化を目指す。

実証実験の概要

近年、マンションの老朽化の急増が問題視される中、維持管理の適正化とともに、建替えの円滑化によるマンション再生の重要性が高まっている。マンション建替円滑化法の施行により老朽化したマンションの建替えルールが整備されているものの、マンション所有者同士の合意形成及び建替えまでの実行プロセスの難易度がハードルとして存在している。

今回の実証実験では、3D都市モデルの建築物モデルや都市計画モデルを解析し、建物の未消化容積率を直感的でわかりやすく可視化するアプリケーションを開発することにより、マンション所有者及び民間事業者による開発余地の把握を可能とし、建替え・有効活用等の活性化への寄与を目指す。

実現したい価値・目指す世界

現状、既存の建築物の開発余地(建築可能ボリュームと既存建築物のギャップ)を面的に把握する手法は乏しく、開発事業者等は登記簿等を用いて個別に調査を行っている。また、マンションオーナーにとっても、所有するマンションの開発余地をわかりやすく把握する手段はない。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、建築可能容積を決定する敷地面積や接道延長、都市計画決定等をパラメータとして抽出。これを利用し、斜線規制等の法規制を考慮した建築可能ボリュームを三次元的に可視化するシミュレータを開発する。これにより、都市スケールで誰でも一目で開発余地を把握可能とし、マンションオーナーや民間事業者等による建築物の建替え等の活性化への寄与を目指す。さらに、余剰容積率の利用から空中権やTDR(空中権移転)策定へと議論が拡大する要素の一助になることを期待する。

対象エリアの地図(2D)西新宿地区
対象エリアの地図(3D)西新宿地区

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、3D 都市モデルの建築物モデル及び道路モデルを活用して、都市計画及び建築基準法に基づく指定容積率によって建築可能な建物の最大ボリューム(以下、容積ボリューム)と既存建築物の差分(余剰容積)を三次元的に分析して可視化するシステムを開発した。

容積ボリュームの算出に当たっては、まず、土地利用モデルや公図等の敷地に関するデータと建築物モデルの形状の組み合わせ等から建築敷地を特定した。次に、この敷地面積に対して建物用途、道路モデル(前面道路幅員/前面道路・対面道路の別)、用途地域等の都市計画、指定容積率、建蔽率、隣地境界線の有無といった情報から建築容積ボリュームの制限条件を生成し、さらに前面道路斜線規制及び隣地境界斜線規制による空間的な制約条件を三次元的に再現することで、容積ボリュームを算出している。容積ボリュームは床面積と階高の組み合わせによっても変わり得るため、算出の際はユーザーが用途地域に応じた任意の階高(住居系:3m、商業系:4m等)を設定する仕組みとした。こうした手順によって算出された容積ボリュームと既存建築物の差分を立体的に空間演算することで、余剰容積を算出している。算出された容積ボリューム・既存建築物のモデルともにシステム内部にサーフェスモデルで保持されていることから、容積ボリュームのサーフェスに囲まれた既存建築物モデルの体積を算出する機能をBabylon.jsのサーフェスメッシュ関数を用いて開発し、余剰容積ボリュームを計算するためのアルゴリズムとして実装した。
シミュレーション結果を可視化するシステムとして、CesiumJSをベースに開発したWebGISを構築し、既存の3D都市モデルと重ね合わせることで、余剰容積の把握を可能とした。ユーザーエクスペリエンスの観点から、エリア別・建物別での余剰容積の算出・表示、3D都市モデルの透過表示、余剰容積の多寡に応じた色分け表示などの機能を開発した。これにより、容積率が未消化で開発余地があるエリアをわかりやすく把握することが可能とした。
これらの空間演算及び可視化機能はウェブシステムとして統合されており、ユーザーはブラウザのみから利用することができる。

対面形式でのヒアリングの様子
ビデオ会議形式でのデモンストレーションの様子

検証で得られたデータ・結果・課題

本実証実験では、東京都中央区八丁堀、新宿区西新宿、渋谷区道玄坂の 3 つの地区を対象にシミュレーションを行った。

シミュレーション精度の検証として、本システムによって生成された容積ボリュームと、建築設計業務の通常の方法で計算される容積ボリュームとの比較を行った。その結果、本システムが前提とする条件と一致する建築物については、90%を超える一致度が得られた。なお、本システムでは、前面道路斜線制限、隣地境界斜線制限、高度地区による最高高さ制限等を空間的な制約条件としているが、その他の法規則による制限や容積率の緩和には対応していないため、比較検証は同一の条件によって行った。

また、サービスの有用性検証としてユーザーとなり得るデベロッパー・ゼネコン45名、自治体5名、その他関係者3名の計53名に対して、シミュレータの操作や処理をデモした上で、実務への活用可能性や都市計画における開発余地の確認支援に資するツールか、等についてヒアリングおよびアンケート調査を実施した。調査では、可視化による直感的な分かりやすさや、専門知識が無くても建築計画や都市計画などの初期段階の検討へ活用できることなどについて評価する意見が示された。

一方で、本システムをより汎用的なものとするためには、実際の容積ボリュームの計算に用いられる多様な法規制等に対応する必要がある。また、我が国では建築敷地の情報として利用可能なGISデータはほとんど流通しておらず、今回の実証実験では各種の情報から手動で建築敷地を作成することになった。斜線制限面の生成の際は建築敷地、建物、前面道路を紐づけて空間演算を行う必要があるが、この紐づけも手動処理によって行っている。これらの手動工程はスケーラビリティを確保するうえでの課題となっている。

検証結果(専門家による作図結果(上)とシミュレーション結果(下))
色分け表示(八丁堀地区)

参加ユーザーからのコメント

・不動産建設事業の実施箇所・実施予定箇所の現地探索や、ゼロからの物件探索に時間を費やしており、エリアが増えれば現在の機能でも 3D 都市モデル上で目星をつけることができ、初期検討の業務効率化を図れる。
・敷地にかかるあらゆる規制・データが一元的・包括的に 3D 都市モデルに入力されていれば、建替えの可能性を面的に把握しやすくなる。(開発においては総合設計を念頭に考えることが多いため、総合設計のシミュレートができる機能が欲しいとの意見多数。シミュレータ活用には余剰容積の活用を検討する意義のある土地価格の高い都市部に限られる。)
・現在の容積率可視化機能では想定していない様子であるが、容積率の上限を超過している建物がわかると、既存建物の有効利活用を検討する対象識別の手がかりになる。(むしろ、既存不適格物件の方が建て替えに関する課題を抱えており、建替えの阻害要因が把握できる機能等があれば、ユースケースとしての成果に繋がると考える。)

今後の展望

本実証実験の結果を踏まえ、本システムの実用化に向け、日影規制、道路斜線の緩和措置、天空率等の多様な法規制への対応や、複数敷地をまとめた建て替え検討への対応など、現実に即した条件設定が可能なように開発を進めていく。また、本システムにおいて大きな課題となっている、建築敷地の特定についても、最新技術やデータを用いて自動算出可能な技術検討を進め、システムのスケーラビリティを担保する必要がある。

これまで、余剰容積の有無はゼネコンや建設コンサル会社等が開発や買収の検討の際に専門知見をもって個別に確認してきたが、本システムを用いることにより、技術的な専門性を有しないデベロッパーや自治体職員などの多様な利用者が都市スケールで開発余地を平易かつ直感的に把握できるようになった。このため、個別建物の開発余地の確認のみならず、都市全体の土地利用状況の把握や面的な再開発検討など、都市構造の再生を検討する際にも本ツールは有用であると考えられる。このような多様な利用を普及していくため、ユーザーが利用しやすいサービスとしての完成度を高めていく。