uc22-013

カーボンニュートラル推進支援システム

実施事業者アジア航測株式会社
実施場所石川県加賀市
実施期間2022年4月~2023年3月
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3D都市モデルを活用した太陽光発電シミュレーションをOSSとして提供。地域の脱炭素政策の推進に貢献する。

実証実験の概要

カーボンニュートラルの実現に向けて、建物屋根への太陽光発電設備の導入が進んでいる。今回の実証実験では、3D都市モデルを活用した太陽光発電のポテンシャル推計及び反射シミュレーション(uc21-001)で検証したアルゴリズムをもとに、都市スケールでの太陽光発電量ポテンシャルや対象施設抽出を行うシステムをオープンソースソフトウェアとして開発。地域の脱炭素政策を推進するための基礎データを提供する。

実現したい価値・目指す世界

近年、世界的に地球温暖化対策が喫緊の課題とされており、我が国も2020年10月に、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言した。2021年6月に策定された「地域脱炭素ロードマップ」では、地域内の再エネポテンシャルを最大限活用した再エネ発電設備の導入を進めるため、3D都市モデルを用いたシミュレーション結果を活用することとされている。

2021年度の取組みでは、3D都市モデルを活用した太陽光発電のポテンシャル推計及び反射シミュレーションシステムを開発した(uc21-001)。今回はこれを更に発展させ、行政機関職員の利用を想定したGUI、指定エリアの推計発電量の集計・アウトプット機能、災害リスク評価等を踏まえた太陽光発電設備設置の適地判定機能等を追加したカーボンニュートラル推進支援システムを開発し、これをオープンソースソフトウェアとして公開する。3D都市モデルを利用して簡易にシミュレーションを行うことができる環境を用意することで、地域の脱炭素政策を推進するための定量的なエビデンスを提供することが可能となる。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、「カーボンニュートラル推進支援システム」として、発電ポテンシャル推計機能、反射シミュレーション機能、適地判定・集計機能をフルスクラッチで開発した。制限区域などのShapefileの読み込みにはライブラリshapelibを利用した。開発したシステムは、非エンジニア属性のユーザーでも利用可能なよう、GUIを備えたアプリケーションとしてビルドした。

発電ポテンシャル推計機能では、3D都市モデルの建築物モデルLOD2(CityGML形式)のほか、月毎の可照時間(国立天文台こよみの計算)、月毎の平均日照時間(気象庁)、月毎の積雪深(NEDO)等のオープンデータをインプットデータとして活用した。これらのデータから、直達日射量、散乱日射量、反射日射量の合計値を1m×1mメッシュごと、1時間ごと365日分を算出。それらの結果からJIS C 8907「太陽光発電システムの発電電力推定方法」(2005年)を参照し屋根面単位で発電量を推定する仕組みとした。なお、対象屋根面面積の閾値(どの程度の広さがあればパネルを置けるか)や単位当たりの発電量(1パネル当たりのkw/h)はユーザーが任意のパラメータを設定できるようにした。計算結果はCSVファイル、閾値により色分けされた画像、年間予測日射量、年間予測発電量、光害発生時間の属性及び年間日射量で色分けしたテクスチャが付与された建築物モデルLOD2(CityGML形式)として出力される。

反射シミュレーション機能は、「太陽光発電における光害検討の簡易化手法について」(2020年、近畿地方整備局)のアルゴリズムを利用し、屋根面に当たる太陽光の反射光ベクトルを求め、周辺建物への反射を判定し、その始点及び終点を抽出する。計算結果は、反射点及び到達点の座標とそれぞれに該当する建物ID、反射光が当たる時間(1時間単位)の集計結果をCSVファイルとして出力する。

適地判定・集計機能は、災害リスク(浸水・土砂災害)や景観保全区域などのShapefileデータをインプットデータとして、建物構造(木造か、鉄筋かなど)、洪水・津波の浸水深、土砂災害警戒区域内か否か、積雪荷重、景観保全区域内か否かの各項目にリスク度合いに応じたマイナスポイントを建物ごとに付与し、その合算を5段階の優先度として指標化することで太陽光発電設備設置の適地を判定する仕組みとした。判定結果は、建物ごとの優先度のCSVファイル、色分けされた位置情報付き画像として出力される。

これらの各機能を非エンジニア属性の行政職員等でも扱えるよう、GUIを備えたアプリケーションを作成した。GUIでは、入出力ファイルの指定、パラメータ設定、集計エリアの選択が可能である。

システムの解析・シミュレーション画面
システムの適地判定・集計画面

検証で得られたデータ・結果・課題

本システムの屋根面毎の1m2あたりの年間日射量(直達日射、散乱日射量、反射日射量の合計)の解析結果をNEDOの年間日射量データ(調査対象期間のうち、日射量が最も少ない年(寡照年)、最も多い年(多照年)を月毎に抽出し、それを1年分繋ぎ合わせた「寡照年の年間日射量」、「多照年の年間日射量」)と比較したところ、寡照年の年間日射量と多照年の年間日射量の範囲内であり、平均年との差が概ね数%程度、大きくとも10%程度の範囲であり、結果は妥当と考えられる。また、発電量の推計結果を実測発電量との比較が可能な2地点で確認したところ、単位面積あたりの年間発電量が5%前後の差であり、行政におけるポテンシャル調査等への利用に支障ないと考えられる。

行政職員に実際にシステムを操作してもらい、有用性を確認した。土地のメッシュ単位でポテンシャルを推計するREPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)と比較し、3D都市モデルを活用することで、建物の形状や周囲の建物による影の影響を考慮したポテンシャルが推計可能となるため、市が取り組む再生可能エネルギーのポテンシャル調査において、特定のエリアの詳細なポテンシャル調査に活用ができるとの意見が得られ、本システムが脱炭素政策推進のための定量的なエビデンスの提供に有効であることが確認できた。また、本システムをGUI操作のアプリケーションとしたことで非エンジニアの行政職員でもポテンシャル推計を実施することが可能となった。

一方、実用化に向けた課題として解析処理時間の長さが挙げられた。行政機関のパソコンでは端末性能上、入力データを分割して実行する必要があるが、入力データの範囲を小さくすると周辺建物の影の影響が過小評価される可能性があるため、適切な範囲で解析できるようにCore i5、メモリ8G程度の端末の導入が処理の効率化に必要となる。また、行政の計画策定においては、地域の合意形成のプロセスとして、住民等への意見聴取や協議会での協議が必要となる。そうした場では、解析結果を数値で示すだけでなく視覚的にわかりやすく示すことが重要となる。行政職員がこうした資料を容易に作成し、日常的かつ継続的に活用するためには、出力結果を利用シーンに応じてビューアやGISソフトに読み込み活用するための非エンジニア向けのマニュアルの整備も重要となる。

単位面積あたりの年間日射量推計の結果
単位面積あたりの年間発電量推計の結果
適地判定・集計の複合条件のよる判定方法と結果

参加ユーザーからのコメント

・システムの活用により従来と比較してポテンシャル推計の精度向上が見込める。
・災害リスクや景観規制など複合条件について客観的な評価ができる。
・条件を変えて繰り返しシミュレーションする機能は備わっていても処理時間がかかると、作業効率化への有用性は下がってしまう。
・マニュアルを見て本システムを利用することは可能であるが、出力したデータを行政職員がGISソフトで活用できるようなマニュアルの整備が必要である。またマニュアル整備により担当者異動時にも引き継げるようにする必要がある。

今後の展望

今回の実証実験で開発したシステムはオープンソースソフトウェアとして公開する。推計に必要となる入力データには3D都市モデル以外のデータも含めてオープンデータを利用しており、システムのGUI画面からパラメータもユーザーで設定することができるため、建築物モデルLOD2を整備することで、専門の知識を持つ技術者に限らず、行政職員が発電量の推計や適地判定を実施し、それらの結果に基づく導入目標や促進区域の検討を行うことが可能となる。本システムの活用により、行政職員が主体的にデータに基づく地域の脱炭素政策の検討を進める一助となることが期待される。

また、3D都市モデルがもつ形状を利用することで、従来よりも精緻な分析や検証が可能となる。太陽光発電設備の設置においては、都市部では屋上設置スペースが限られている建物が多いこと、地方部では空地の活用という課題がある。今回開発したシステムは建物屋根のみを対象としたが、壁や土地へ太陽光発電設備を設置した場合も推計できるようにシステムを拡張することで、本システムの活用エリアの広がりや住宅メーカー等の民間企業での活用も期待される。システムの改善点として、ユーザーが解析する範囲を画面上で選択する機能や屋根面ごとの日射量の色分け結果と背景地図を重畳した形で画像出力する機能があると、本システムのみで作業ができるようになり、利便性が高まる。