uc22-015

XR技術を活用した市民参加型まちづくり

実施事業者株式会社ホロラボ
実施協力東京都立大学饗庭伸研究室
実施場所東京都八王子市
実施期間2022年5月~11月
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3D都市モデルとXR技術を組み合わせることで、複雑な都市開発を直感的に理解可能とし、市民参加を活性化させる。

実証実験の概要

大規模な都市開発においては、都市計画に関する複雑な情報をわかりやすく住民に伝え、再開発事業者や地域住人などの様々なステークホルダが透明性を持って討議を重ね、開発計画を実現していくことが重要となる。

今回の実証実験では、3D都市モデルとXR技術を組み合わせた市民参加型まちづくりの支援ツールを開発することで、まちの課題や将来像を直感的に理解可能とし、市民のまちづくりへの参加を活性化させることを目指す。

実現したい価値・目指す世界

都市部における大規模な土地利用転換などの再開発においては、再開発事業者や地域住人など様々なステークホルダが討議を重ね、合意形成をしていくことが重要であるが、従来型の説明会における紙媒体による図面や計画の説明では、開発に関する複雑な情報をわかりやすく市民に伝えることが課題となっていた。特に自治体主導の地域再開発計画では、人口減による税収減を背景として、既存資産の有効活用や民間施設との複合型開発などの新しい手法を取り入れる必要性が高まっており、都市開発は一層複雑化している。

3D都市モデルは複雑な都市の情報をわかりやすくビジュアライズ可能であり、これとARやVRなどのXR技術を組み合わせた市民参加型まちづくりの支援ツールを開発することで、開発計画の直感的な理解、様々な意見の保存と可視化、新たなアイディアの創出やディスカッションの場の提供等を可能とする。これにより、市民参加型まちづくりに「新しさ」、「楽しさ」、「魅力」といった価値を提供し、計画に関わる全ての人々の関心と理解度を一層高め、ステークホルダ間のコミュニケーションを活性化させる。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、八王子市の北野下水処理場・清掃工場跡地の活用をテーマに、XR技術を活用した市民参加型まちづくり支援ツールを開発した。本ツールは、3D都市モデルと都市の現況を理解するための様々な地理空間情報(GIS)やテキスト、画像、動画などを自由に重ね合わせ、一元的に管理・可視化できる3D地理空間情報Webプラットフォーム「HoloMaps」と、UnityベースのARアプリケーションである「Fieldwork AR」と「Workshop AR」の、計3つのアプリケーションで構成されている。

「HoloMaps」はMicrosoft Azure上に構築したCesiumJSベースのWebアプリケーションであり、3D都市モデルの3DTilesデータを表示できることに加え、様々な形式のGISデータ(GeoJSON, CZML)や2D/3Dデータ(jpg, png, mp4, las, glb)をウェブ画面から簡単に登録が出来るインタラクションを備えている。登録されたデータの管理・調整用にPostGISをベースとしたWebCMSを開発した。また、後述する各ARアプリケーションとのデータ連携が可能となっている。

「Fieldwork AR」は「HoloMaps」と連携し、Volumetric Video(奥行情報を追加した立体映像)など様々なARコンテンツの視聴と、写真や動画の撮影・アップロード機能を備えるフィールドワーク用のアプリケーションであり、Microsoft HoloLens 2(以下HL2)とiPadに対応している。Unityをベースとして、二次元バーコード認識によるARコンテンツの位置合わせにはQRFoundation(iPad版)及び Mixed Reality-QRCode-Sample(HL2版)を、Volumetric Videoの撮影と再生はRememory SDK(iPad版)及びAzure Kinect DKと自社ライブラリMeshPortation(HL2版)を利用した。「Fieldwork AR」を用いてユーザーがアップロードした写真や動画は位置情報付きで「HoloMaps」へ共有され、「HoloMaps」上でも閲覧することができる。

「Workshop AR」は、AR画面上に「HoloMaps」で登録された3D都市モデルやその他のオブジェクトを表示するとともに、カード型ARマーカー(タンジブルインターフェース)を読み取り、AR画面上に読み取ったオブジェクトを重畳する機能を備えている(配置したオブジェクトの位置も三次元的に計算され、3D都市モデルなどと組み合わせてオブジェクトを自由に配置することが出来る)。また、複数のユーザーが同一の画面をリアルタイムで共有可能であり、カード型ARマーカーによって追加されたオブジェクトを複数人で閲覧・操作することが出来る。参加ユーザーはグループ単位で管理され、グループで作成したワールドを保存し、「HoloMaps」上で再現することも可能である。システムとしては、Unityをベースに画像マーカー認識(iPad版はARKit Image Tracking, HL2版はVuforia Image Targets)を持つクライアントアプリケーションと、ゲーム進行管理用Webアプリ(ターン管理、ユーザーコメントの入力とリアルタイムなAR反映、画像マーカー配置の保存機能)を開発した。

これらの開発したシステムの有用性検証として、以下の3つのワークショップを行った。

まず、まちづくりワークショップの最初の段階として、北野下水処理場・清掃工場跡地を歩いて新たなまちづくりへの気づきを得ることを目的とした「XR現地ツアー」を開催した。参加者は「Fieldwork AR」を用いてまちに関する情報を現地を歩きながらAR画面上で得ることができ、エリアに関する理解を深めることができた。また、「Fieldwork AR」の機能を用い、ユーザーはまち歩きをしながら「気付き」をその場で動画や写真の形で保存し、「HoloMaps」へ共有した。これにより、現場での「気付き」をタイムリーにデジタルデータとして保存するとともに、フィールドワーク後にも参加者が相互に「気付き」を共有し、議論に役立てることが出来た。

次に、地域の歴史・文化や行政等の様々な情報を共有し、新しいまちづくりのアイディアを議論するため「3D都市モデルワークショップ」を開催した。このワークショップでは、「HoloMaps」を用い、「XR現地ツアー」によって収集した情報と、八王子市に関連する様々な情報を3D都市モデルと合わせてWebGIS上で可視化することで、参加者がまちの課題を直感的に理解できるようにした。このワークショップを通じて生み出されたまちづくりのアイディアは、再び「HoloMaps」上に保存され、共有された。

最後に、これまでのワークショップの成果を取りまとめる場として、「XRアイディア創出ワークショップ」を開催した。これまでの議論を踏まえ、グループごとに対象エリアの再開発に関するアイディアを検討した。まちづくりのアイディアを創発するため、「Workshop AR」を用いたゲーム形式のワークショップとした。参加者には、カード型ARマーカーが配布され、各ARマーカーにはこれまでの議論を踏まえた再開発のビジョンの3DCGが紐付けられている(例えば、「農地」や「公園」といったカードのARマーカーを読み取ると、それぞれの3DCGがAR画面上に表示される)。参加者はこれを用いて、自らのアイディアを3D空間上で具体的に構築し、グループ内でビジュアルを共有しながら、その内容について吟味することができる。これらのワークを通じ、グループごとに新たなまちづくりアイディアを取りまとめ、発表が行われた。各グループのビジョンは「HoloMaps」に保存され、後からウェブ画面又は「Workshop AR」を用いて再度確認することができる。

 「Fieldwork AR(パカパカAR)」をつかったまちあるきの様子
「Workshop AR(ポコポコAR)」をつかったアイディア創出ワークショップの様子

検証で得られたデータ・結果・課題

従来、再開発の構想などを住民と討議するためのまちづくりワークショップなどは、高齢層が主な参加者という傾向があり、参加者層の多様性や自由な発想に基づく議論を活性化させるといった面での課題となっていた。今回の実証実験では、本システムを用いた「XRアイディア創出ワークショップ」など先進的な取組である面を強調したことにより、ワークショップ参加者27名のうち20代以下が33%、30代~40代が33%、50代が26%、60代以上が8%と、参加者の年齢層を多様化することができた。

また、従来のまちづくりワークショップなどでは、自治体側からテキストや図面などが示され、課題やビジョンの内容の理解が難しいと言った課題があった。今回のワークショップでは、「Fieldwork AR」や「HoloMaps」などを用いることで、まちの現在・未来のイメージについて参加者が直感的に理解することができた。また、行政や住民、まちづくり関係者などの意見やアイディアをその場で保存し共有可能とすることで、関係者が共通の認識を持ちながら双方向のコミュニケーションを行うことができた。

一連のワークショップのまとめとなる「XRアイディア創出ワークショップ」では、参加者はカードを物理的に触って直感的に動かすことができる「タンジブルインターフェース」を用いて理想のまちの姿を簡単に構築し、これを「Workshop AR」の画面上で共有することで、自由な発想が創発され、関係者間のコミュニケーションが活性化された。参加者アンケートで過半数以上の方から、操作や機能のわかりやすさとコンテンツ内容に対して、好評が得られた。

また、まちづくり以外の自治体課題に対する市民参加の場においてもXR技術を用いることについて、9割近い参加者から「期待する」との評価を得た。

一方で、多方面で挑戦的な取り組みであったことから、課題も多数見出された。まず、共通的な課題として、多くのデジタルデータをオンラインで扱うことから通信回線の品質にワークショップの進行が左右され、待ち時間が度々発生することがあった。また運営面では、事前のデータやコンテンツの制作、デバイスの準備、ファシリテータへのツールのレクチャ、当日のトラブルシューティングなど実用化に向けてオペレーションの効率化や内容の磨き込みが必要であることが明らかになった。

また、ワークショップ全体のデータ基盤となる「HoloMaps」については、特に表示する各種データのサイズが課題となった。大きなデータを多数ロードすると通信回線と処理能力の双方の問題から表示までに時間を要し、件数は少ないがブラウザがクラッシュすることもあった。ユーザー体験面でも初見で使いこなすことは難しく、画面内の3D空間を動かすのに慣れが必要であるといった意見もあった。

2つのARアプリ「Fieldwork AR」と「Workshop AR」については、ともにARマーカーの認識精度が屋外や照明直下などの光学条件に大きく左右されることで、ARマーカーを認識するまで参加者がARデバイスのカメラをかざす角度・向きを試行錯誤して探すといったユーザー体験面の課題があった。

まち歩き結果が表示されたHoloMaps。掲載されたデータが415件になった。
HoloMapsを使って、まちづくりの方針を検討する様子   
さまざまなデータを重畳させたHoloMaps

参加ユーザーからのコメント

・3D地図上で情報を重ねて意見交換をすることでイメージの共有が早くなった。
・データを見ながら話すことで議論のきっかけになり、具体的な案が出て建設的な議論ができる。
・知りたい情報が見られるのは便利だが、欲しいデータが無いこともある。
・ユーザーが大量のGISなどのコンテンツを使いこなす必要がある。
・操作はシンプルで分かりやすいが、慣れるまでの時間が必要と感じた。
・オンラインワークショップで、3D地図上で実際の参加者が撮影した写真や動画をみることで、体力使わずに、色々なところに行って見られるのがよい。
・ARカードゲームで使った模型とARで表示する3Dの相性が良く、活発な意見交換をすることができた。
・ARで建物のツールカードを可視化することで、一般の人でも想像しやすい
・場を盛り上げるための新たなコンテンツとしてXR技術を導入することは有用と感じた。

今後の展望

本実証実験で得られた結果から、XR技術を活用した市民参加型まちづくり支援ツールやそれらを活用したワークショップが市民参加型まちづくりと親和性が高く効果的であることが分かったため、更なる活用に向けて検討を進めていく。具体的には、自治体主催のワークショップでの活用を実現するために、ユーザビリティの改善(ツール間のUI/UXの統一等)やセキュリティ強化をはじめとした機能追加、運営のためのオペレーションの効率化、ワークショッププログラムの拡充を目指す。またこれらと並行して、一つの自治体にとどまらずに全国規模での展開を企図し、ワークショップを実施している事業者と協業することで、ユーザー体験やサービス品質の向上とオペレーションの精緻化を進めていきたい。

3D都市モデルとXR技術を組み合わせることで複雑な都市開発を直感的に理解可能とし、市民参加型まちづくりにおけるDXを推し進める。これにより街づくりのプロセスに新たな価値を提供し、多様な世代をまちづくりに呼び込むことで、よりよい未来の実現を目指していく。