uc22-018

地域防災支援プラグイン

実施事業者エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社 / 株式会社Eukarya
実施場所鳥取県鳥取市
実施期間2022年10月
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地域の防災力向上のための防災プラットフォームを開発。地域住民主体による地区防災計画等の策定を支援する。

実証実験の概要

地域の防災力を向上させるためには、住民主体による地区防災計画の立案などボトムアップ型の対策が重要となる。他方、これらの議論に必要な地域の災害リスク情報や関連施設に関する情報は分散しており、一般の住民にとってわかりやすい形で議論を進めることは難しかった。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用して地域の避難施設の想定収容人数等の防災上必要な各種施設の詳細情報をインフォボックスとして分かりやすく可視化するツールを開発し、住民によるワークショップでの活用を行う。これにより、住民の防災情報へのアクセシビリティを向上させ、住民主体の防災まちづくりを推進することを目指す。

実現したい価値・目指す世界

「地区防災計画」は、平成26年度に新たに創設された制度であり、住民等の自助・共助の自発的な防災活動を推進し、地域の防災力を高める観点から、地区居住者等により自発的に行われる防災活動を定める計画とされている。一方で、内閣府調査によると、令和2年4月1日時点で、地区防災計画の作成に向けた活動が行われているのは全市区町村の約1割に留まっており、地域の防災意識の啓発が急務となっている。加えて、地域住民等の機運を高め助言・誘導できるような、計画作成を支援する仕組みや、支援者の不足についても指摘されている。

そこで、今回の実証実験では、3D都市モデルに防災上必要な避難施設の想定収容可能人数やリスクとなる施設(空き家等)の情報等の各種施設の詳細情報を統合し、防災情報をインフォボックスとして3D都市モデル上でわかりやすく可視化するツールを三次元WebGISプラットフォームであるRe:Earthのプラグインとして開発。これを用いた住民による防災ワークショップを実施することで、住民の防災情報へのアクセシビリティを向上させ、住民主体の地区防災計画の策定等を支援することを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

住民の防災情報へのアクセシビリティを向上させ、住民による避難計画等の策定を支援することを目的として、地域における様々な防災情報をウェブ上で3D都市モデルとともに分かりやすく可視化する機能をRe:Earthのプラグインとして開発した。具体的には、住民が防災情報を参照しながら自分の避難ルートを検討できるよう、GeoJSONで記述されたラインデータを読み込んで表示する機能を開発した。GeoJSONは国土地理院が提供する「地理院地図」の作図機能を使って作成した。また、csvで記述された避難施設の情報をRe:Earth上のフラグと紐づけ、ビューワ上で範囲を選択することで、範囲に含まれる避難施設の想定収容人数等の情報をcsvで出力する機能を開発した。

この他、Re:Earthの既存機能である、位置に紐づけてフラグ、画像、テキスト等の様々な情報を作成・編集・可視化できるインフォボックス機能を用いて、災害時に資源となる施設・設備(指定避難所やAED等)やリスクとなる設備(ブロック塀や電柱等)の施設写真や施設概要(災害時の役割等)、現地踏査により得られた詳細情報(ブロック塀の損傷状況等)等を追加した。

開発したプラグインの有用性の検証のため、地元在住の大学生を対象とした防災ワークショップを開催し、地区防災計画に位置付ける避難ルートを検討した。これまでの住民による防災ワークショップで一般的に用いられている方法である、大判の白地図等を用いた検討手法との比較を行うため、従来の方法による避難ルート検討のワークショップを実施した上で、開発したシステムを用いたワークショップを再度実施し、その効果を検証した。なお、参加者の防災意識によって検討結果に差異が生じるかを検証するために、事前に防災意識に関するアンケート調査を行った上でグループ分けを実施した。

ワークショップ実施後は、参加者に対して情報の分かりやすさやツールの有用性、充実度、白地図によるワークショップと比較した検討のしやすさ等についてアンケート調査を行うとともに、まちづくりの専門家を交えて有用性についての意見交換を実施した。

プラグインによる避難ルート検討
プラグインによる検討結果の情報共有

検証で得られたデータ・結果・課題

ワークショップ参加者を対象に3D都市モデル上で提供した情報の有用性、避難ルートの検討における白地図との比較、更に有用なツールとするための改善事項、今後防災まちづくりにおいて活用が期待される場面についてアンケート調査を実施した。

3D都市モデル上で提供した情報の有用性については、インフォボックスで表示した情報の分かりやすさや避難ルートの検討における提供情報の有用性、提供情報の充実度、いずれの項目においてもポジティブな回答が8割を超えており提供する情報としては有用であったと言える。有用だと感じた理由としては、避難所等の一般的に入手が可能な施設の情報に加え、ブロック塀等の道路付帯物の情報や地域の特性に応じた様々な情報を統合・可視化することで避難ルートの検討の深化につながったことなどが挙げられた。また、土地の起伏やインフォボックスで表示した施設写真によりイメージが明確化したことも指摘された。

白地図との比較においては、3次元表示による災害危険性等の直感的な把握や避難ルート検討のための具体的なイメージづくりが可能になるなど、参加者全員からポジティブな意見が得られた。その理由として、情報の充実度と表示・非表示の切り替えにより検討に必要な情報を適切に取捨選択できることが挙げられた。一方、避難ルート等の作図においては、本事業ではRe:Earthに作図機能を追加することができず、地理院地図を併用する手法をとったため操作が煩雑になったことが影響し、ポジティブな意見は7割程度にとどまった。

更に有用なツールとするための改善事項について、機能面としては作図機能や作図した避難ルートの距離の計測機能の追加が挙げられた。また、3D都市モデルの表現として、より分かりやすいビジュアルによる土地の起伏の再現や街灯の有無による明るさの変化等、より現実に近い視覚イメージにすることも挙げられた。また、提供する情報として、道路幅員や道路延長、水路・側溝の有無等の基礎的な道路情報の追加も指摘された。

プラグインによる編集画面
一般公開用画面

参加ユーザーからのコメント

実証に参加した鳥取大学の学生、有識者より、以下のコメントがあった。
・避難所についての情報だけではなく、ブロック塀などの細かい情報も収集することができたので、避難ルートを検討する際に役に立った。
・プラグインのインフォボックスによって提供された情報は様々な情報が網羅的に整備されていて良かった。今後は、ユーザーが自由にコメントなどを書き込むことができる機能が追加されるとより分かりやすくなると感じた。
・道路幅員や道路延長、水路や側溝の有無など、基礎的な道路情報は必要かもしれない。ユーザーがそれらの情報を気軽にプロットでき、コメントができると良いと感じた。
・クラウドを活用しつつ、まちあるきを行いながら情報をリアルタイムに共有できると良いと感じた。
・将来的には、街灯により避難ルートがどの程度明るいのかがわかる夜間モードのような機能があると良いと感じた。

今後の展望

今後の改善の方向性としては、ユーザーの利便性や検討の高度化に資する機能の実装、現実の視覚イメージに近づける工夫、防災情報の適時管理の3点が挙げられる。

追加機能実装の観点では、Re:Earth上で避難ルート等の作図や作成した避難ルートの計測を行う機能を追加し、ユーザビリティを向上させることで、ワークショップにおける議論の活発化・高度化を図っていく。また、タブレット等を用い、ランドマークフラグの入力・設置をウェブ上で実装することで、まちあるき中にディスカッションをしながら複数人による地図への情報追加が可能になり、検討の深化や鮮度の高い情報の入手も可能となる。

視覚イメージの工夫としては、街路空間をより現実のイメージに近づけるという観点から、ブロック塀や電柱などの都市設備を整備することが考えられる。これら情報があることで、心理的な圧迫感をイメージしながら、より現実に即した避難ルートの選択等の検討が可能となる。道路付帯物の倒壊による通行可否等のシミュレーションにも活用することも可能である。