uc22-029

3D都市モデルプラグイン共有プラットフォーム

実施事業者株式会社Eukarya
実施場所大阪府摂津市
実施期間2023年1月
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3D都市モデルのユースケースを共有する「3D都市モデルプラグイン共有プラットフォーム」を開発。行政職員等のノンエンジニアでも、プログラミング不要かつ低予算でユースケース創出ができる環境を構築する。

実証実験の概要

3D都市モデルの整備範囲が拡大していくにつれ、様々な主体により多くのユースケースが開発されつつある。今後も3D都市モデルを活用した地域課題解決の機運が高まっていくことが予想されるが、地方公共団体にとっては、ユースケースが特定のシステムに依存していることや、開発されたユースケースを地域間で共有することが困難であること、新規の開発に高額の費用が必要であること等が課題となっている。

今回の実証実験では、行政職員や市民等のノンエンジニアでも、容易かつ安価に3D都市モデルを活用したユースケースを創出できるよう、様々なエンジニアが開発した3D都市モデルのユースケースシステムをプラグインとして共有できる「3D都市モデルプラグイン共有プラットフォーム」をオープンソースにより開発する。

実現したい価値・目指す世界

国土交通省によるProject PLATEAUの推進により、3D都市モデルの意義や有用性についての認知は徐々に広がりつつあり、行政、市民、企業等の多様なプレイヤーが3D都市モデルを活用したユースケースの開発に関心を示している。一方で、これまでに開発されてきたユースケースの多くは特定のベンダーのソフトウェアに依存したものであるか、オープンソースであるものの稼働させるためには一定のシステム開発が必要であるといった状況にあり、財政力や人材に制約のある地方公共団体等が地域のニーズに合わせたユースケースを手軽に開発することはコストや技術の観点から難しかった。

今回の実証実験では、オープンソースのWebGISソフトウェアである「Re:Earth」を活用し、3D都市モデルのユースケース開発に利用可能なRe:Earthのシステムをプラグインとして誰でも開発して公開・利用ができる「3D都市モデルプラグイン共有プラットフォーム」を開発する。このプラットフォームでは、エンジニアが地域の課題に合わせた様々なユースケース用プラグインを開発し、アップロードして共有することができる。さらに、行政職員や市民等のノンエンジニアは、プラットフォーム上にアップロードされた様々なプラグインをノンコードでインストールし、自らのユースケースに利用することができる。また、「3D都市モデルプラグイン共有プラットフォーム」の開発及び運用手法を確立するため、地域の講習会やアイデアソン・ハッカソンの開催を行い、行政や市民等と連携したユースケースの開発事例を創出する。

これらを通じ、行政職員や市民といったノンエンジニア属性のユーザでも、プログラミング不要かつ低予算で3D都市モデル等を活用したユースケースを創出できる環境を整え、3D都市モデルを用いた地域の課題解決をさらに促進することを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、誰もがRe:Earthのプラグインにアクセスできる「プラグイン共有プラットフォーム」(以下、プラットフォーム)を開発した。開発したプラットフォームにより、ノンエンジニア属性のユーザーでもプラグインをインストールすることで、様々な拡張機能を簡単に活用できるようになった。

プラグイン開発者は、プラットフォームを用いることで、開発したプラグインをZip形式でアップロードし、公開・管理できる。一方、本システムのエンドユーザーであるユースケース開発者は、プラットフォームから利用したいプラグインを選択・インストールし、Re:Earthのプロジェクト内で動作させることで、ユースケースを簡単に開発できる。Re:Earth上でプラグインのコードを埋め込み実行する機能には、WebAssemblyとiframeの技術を活用しており、ユーザーがプラットフォーム上でインストールボタンを押すだけで、Re:Earth上でそのプラグインを同期し、高速に実行できる。

開発したシステムの有用性検証として、他の自治体でも活用できる「自治体モデルユースケース」を、プラットフォームに公開されたプラグインを活用しながら、大阪府摂津市職員(ノンエンジニア属性)に開発してもらった。自治体モデルユースケースは、自治体職員や学生、エンジニア等を対象として年間開催したイベントで提案されたアイデアから選び、それらを実現するためのプラグインを合計6つ開発・公開した。具体的には、浸水ナビプラグイン(国土地理院が公開する地点別浸水シミュレーション検索システムのAPIを利用しWebGIS上で地点を選択すると破堤点ごとの浸水アニメーションを可視化できるプラグイン)、3D tiles Style(Re:Earthで読み込んだ3D都市モデルの色や透明度などのスタイルをGUI上で変更できるプラグイン)、Path Drawer(Re:Earth上のGUI操作でパスを描き保存できるプラグイン)、Animation Generator(3Dモデル等の外部ファイルを読み込みアニメーションを作成するプラグイン)、Viewport(選択した地点からの視野領域を示すオブジェクトを配置するプラグイン)及びLocation Reservation(申請フォームの埋め込みや、マップのキャプチャを作成してユーザーによるWEB申請を支援するプラグイン)を開発し、プラットフォーム上から利用できるようにした。プラグインのユーザーインターフェスには、主にHTML・CSSを用い、実行処理にJavaScriptを用いた。

プラグイン共有プラットフォーム
自治体職員によるユースケース開発の様子

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、摂津市立第一中学校で3D都市モデルの活用方法を考える授業と、摂津市職員を対象としたユースケース開発のワークショップを行い、プラットフォームの有用性を検証した。

中学校では、3D都市モデルとフィールドワークを組み合わせた地域学習の授業を行い、計5つの3D都市モデルの活用アイデアが提案された。街路灯位置データを用いた「安心通路マップ」については、プラットフォームに公開されたプラグインを用いてプロトタイプを作成し、学生(ノンエンジニア属性)のアイデアを容易に実現できた。

摂津市役所では、職員自らがプラットフォームを活用して、浸水ナビプラグインを用いた「浸水シミュレーションユースケース」や3D Tiles StylesとPath Drawerを組み合わせた「道路拡幅工事シミュレーションユースケース」など、庁内の日常業務の課題を解決したり効率化を図るための6つのユースケースを開発し、ノンエンジニア層であっても容易にWebGISを業務に活用できることを検証した。

また、プラットフォームの有用性以外にも、年間開催した3D都市モデルに関する各種イベントを通じて、以下3点の成果が得られた。1点目は、年間開催した行政職員向けの講習会やアイデアソンでは、日常的にGISソフトや3D都市モデルに触れることがない職員であっても、使い方を学べばユースケースアイデアを自ら提案・開発できることが確認された。2点目は、プラグイン開発においてはエンジニア向け講習会を実施しながらドキュメントを整備し、比較的習熟度の浅いエンジニアでも本実証でのプラグイン開発を行える環境を整えた。その結果、習熟度の浅いエンジニアでも、ハッカソンでは短時間でプロトタイプ実施まで辿り着ける等、簡単に開発できることが確認できた。3点目は、共通プラットフォームであるRe:Earthを基盤とすることで、ユースケース開発に参加できる主体の多様化が確認された。具体的には、今までユースケース開発のプロセスに関われなかった中学生や市民により、前述した3D都市モデルの活用提案や自治体の紙媒体データの電子化等が行われた。

今回開発したプラットフォームによりRe:Earthの機能に汎用性・拡張性が生まれたが、それを多様なユースケース開発に繋げるためには、プラグイン自体の汎用性・拡張性の改善が必要である。全く同じデザイン・機能であれば、開発したプラグインによりユースケースを横展開できるが、これらをカスタマイズするためには、プラグイン自体の自由度を向上させる必要がある。また、ユースケース開発の促進には、より多種多様なプラグインがプラットフォーム上に公開されていることが望ましく、プラグイン開発コミュニティの育成も必要である。実証に参加した自治体職員からは、安定的かつ継続的なシステムの学習機会や業務のデジタル化にむけた自治体内での機運醸成・環境整備の必要性が指摘された。

自治体職員によるユースケース「浸水ナビによる浸水シミュレーション」
自治体職員によるユースケース「道路拡幅工事シミュレーション」
プラグイン共有プラットフォームに公開したプラグイン
中学生による3D都市モデル活用アイデアの発表の様子

参加ユーザーからのコメント

【摂津市立第一中学校生徒からの感想】

・3D都市モデルを使って自分でもアプリを作ってみたい。
・これからも町の工夫に目を向けて生活していきたい。

【自治体職員からのコメント】

・今回開発を目指したユースケースは実務でも活用できると思う。
・従来のアナログ的な業務に比べて、3D都市モデルやRe:Earthを用いることで最大で数百万のコストや時間の削減ができる可能性がある。
・現地に行くことなくシミュレーションができるようになる。
・即時的な情報伝達・広報に期待できる。
・使いこなすためのバックアップ体制を役所側が取れるかどうかが重要。

今後の展望

今回の実証実験を通じて、自治体職員や学生など、自らシステム開発が困難なユーザーでも、Re:Earthや「プラグイン共有プラットフォーム」を用いることで、3D都市モデルを活用・編集するユースケースを開発できた。つまり、「プラグイン共有プラットフォーム」は、3D都市モデルのユースケース開発におけるノンエンジニア属性のユーザーの参入障壁の低減を実現したといえる。

今後、より多様で実用性が高いユースケース開発を実現するために、ユースケース開発において自治体職員だけでは対応しきれない、新たなプラグインの開発や大量な資料のデータ化、市民目線のアイデア創出といった部分に、他の主体を巻き込むことが有効である。

また、Re:Earthはアカウントを発行すれば誰でも基本機能やプラグインを利用できるWebGISであり、開発したユースケースやプラグインは別の地域でも活用可能である。その利点を生かして、先進的なユースケースやプラグインを一般公開・共有することで全国展開し、他の自治体で活用促進することも期待される。