uc22-038

ローカル5G電波シミュレーションを活かした基地局配置計画

実施事業者アルテアエンジニアリング株式会社 / 一般社団法人横浜みなとみらい21
実施場所横浜市みなとみらい21地区
実施期間2022年10月〜3月
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3D都市モデルを活用したローカル5G電波の伝搬シミュレーションシステムを開発。簡易かつ効率的にローカル5G基地局の配置計画の立案を可能とする。

実証実験の概要

全国において新たな高速大容量情報通信ネットワークである「5G」の整備・活用が推進されている。その中でも、通信事業者以外の様々な主体が自ら5Gシステムを構築可能な「ローカル5G」を活用し、地域課題解決に活かそうとする取組が進展している。

今回の実証実験では3D都市モデルを活用した5G電波の電波伝搬シミュレーションを行い、エリア全体をカバーするために最適な基地局の配置プランの検討を可能とする手法を開発する。また、実際に5G基地局を設置し、実測値とシミュレーション結果を比較する精度検証を行うことで、基地局配置シミュレーションの有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

横浜市では、みなとみらい21地区において5Gネットワーク整備の促進とその活用実証事業が進められている。また、将来的にはみなとみらい21地区全体を5G活用実証事業エリアと設定し、自動運転やエンタメソリューションなどさまざまな実証事業を展開していく構想が進められており、5Gを活用した地域課題解決の機運が高まっている。

他方、5Gは高速大容量の通信が可能であるが、電波の届く範囲は狭く、直進性が高いため建物等の障害物の影響を受けやすく、エリア全体に的確に5Gの電波を行き渡らせる基地局配置を計画することが難しい。このため、ローカル5Gの運用では、基地局を実際に配置してから配置を調整するなどのコストが発生し、5Gユースケースの創出の課題となっていた。

今回の実証実験では、建物の形状を精緻に再現する3D都市モデルの特徴を活用し、5G電波の伝搬範囲をシミュレーションするシステムを開発。その結果に基づき基地局の位置、電波放射向き、設置の高さなど、エリア全体をカバーするために最適な基地局の配置プランを検討可能とすることで、5Gユースケースの創出を促進する。

3D都市モデルを活用して簡易かつ効率的にローカル5G基地局の配置計画の立案を可能とする手法を確立することで、5Gの早期ネットワークの整備・活用を促進し、5Gを活用した新たな製品・サービスの創出を目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

3D都市モデルを活用した電波伝搬シミュレーションの有効性を検証するため、横浜市みなとみらい21地区を対象に、シミュレーション結果と電波の実測結果との比較を行った。シミュレーションでは、対象地域の3D都市モデルを用い、地形、建物形状を電波伝搬解析の物理条件、基地局位置、アンテナ特性等を入力条件とした。電波伝搬経路のアルゴリズムはG. Wölfleらによる論文[1]を参照し、支配的な電波伝搬経路に沿った損失を算出するモデルを構築した。実測では移動基地局車から発射された電波を位置情報と周波数、電波強度を同時取得可能なエリアテスターで受信し、シミュレーションの結果と突合比較を行った。樹木の有無など現実の状況とシミュレーションでモデル化された都市の状況との違いを踏まえ、シミュレーションの精度を向上するための改善点の検討を実施した。また、エリア全体に的確に5Gの電波を行き渡らせるための基地局配置を検討するため、基地局の配置が可能な764箇所それぞれで、電波の向きを東西南北の4方向と、電波の鉛直方向の向き0°、20°、40°、60°の4パターンを組み合わせ、合計で12,224回の電波伝搬シミュレーションを実施し、この中から最もエリア内をカバーできる基地局の組み合わせを見つけることを試みた。この試行は、「組合せ最適化」と呼ばれ、厳密な最適解を求めるためには膨大な組み合わせの試行が必要となるため、解を求めるのには長い計算時間を要する。そこで、今回のシミュレーションにおいては、生物進化の仕組みを模擬し、最適な解を効率的に探索する手法である遺伝的アルゴリズムを利用することで、最適な基地局配置案を導出した。
[1] G. Wölfle, F.M. Landstorfer, R. Gahleitner, and E. Bonek: “Extensions to the field strength prediction technique based on dominant paths between transmitter and receiver in indoor wireless communications”, 2nd European Personal and Mobile Communications Conference (EPMCC) 1997 (together with 3. ITG Fachtagung “Mobile Kommunikation”), Bonn, Germany, pp. 29-36, Sept 1997.

検証で得られたデータ・結果・課題

計測結果とシミュレーション結果を重ねて表示したグラフを下に示す。横軸は計測地点の番号、縦軸は電波強度をdBmという電波強度を表すのに利用される単位で表示している。青線は計測結果、オレンジ色の線はシミュレーション結果を示している。シミュレーション結果はおおむね計測の変動の範囲内に収まっていることが確認できた。

電波伝搬の計測結果とシミュレーション結果の比較

計測結果とシミュレーション結果の差をヒストグラムにしたものが下図である。縦軸が度数、横軸が計測値とシミュレーション値の差を表している。この結果から、計測とシミュレーションとでは平均-1.68 dB程度の差があり、分布としては7.88 dB程度の広がりがあることが確認できた。電波の計測では、同一地点においても常に電波強度は変動を示す。今回の計測においてはその変動幅がおよそ10 dB程度に対し、平均で1.68 dB程度の差でシミュレーション結果が得られていることから、本シミュレーション結果については、実用的に利用可能な精度であると考えている。

計測値 – シミュレーション値 (dB)のヒストグラム

シミュレーション精度を高めるため、当初、樹木についてはシミュレーションモデルとして考慮に入れていなかったが、実測により、樹木により電波が遮蔽されるエリアは電波強度が弱まることが明らかになったため、改めてシミュレーションモデルに樹木を取り入れたところ、下図のように実測値とシミュレーション値の差を平均-0.498 dB程度まで小さくすることができた。

樹木を考慮した計測値 – シミュレーション値 (dB)のヒストグラム

基地局配置の最適化については、基地局を6局的確に配置することで、エリアの電波カバー率を最大にできる事が確認できた。

下左図に最適化前の電波カバーエリア、下右図に最適化後のカバーエリアの図を示す。濃い青の領域は電波が弱いことを示しており、最適化後のカバーエリアでは電波の弱い領域が少なくなったことが確認できた(カバーエリアの図の中の赤矢印の根元が基地局の配置位置を示しており、矢印の向きが電波の発射方向を示している。)。

左:最適化前の電波カバーエリアの図 右:最適化後の電波カバーエリアの図

今回、シミュレーションを実施したエリアでは、3D都市モデルが整備された後に建築された建物も含まれていたため、その建物については3D都市モデルを手作業で作成し、シミュレーションモデルに組み入れた。開発が活発な地域で精度高くシミュレーションを実施するためには、3D都市モデルの情報と実際の情報にずれが生じないよう、最新の状況を踏まえたデータを活用する必要がある。

参加ユーザーからのコメント

実証に参加した5Gや電波業務にかかわる事業者から、以下のコメントがあった。
・5G基地局の選定を事前に検討できるのは有用
・5Gネットワークの最適エリアを証明しやすい
・ドローン航路の予想に使える
・電波を見える化できることで電波に新しい価値が与えられる
・建物構造、道路環境のデータが詳細になればシミュレーション精度も上がるが、どこまで細かくモデル化するかの際限がなくなる
・街路灯、樹木などの付加データの収集が重要になる

今後の展望

今回の実証実験では、ローカル5Gの電波伝搬シミュレーションと、基地局の最適配置シミュレーションについて、オープンデータとして提供されている3D都市モデルを活用することで、より手軽かつ安価に行うことを可能とするワークフローの構築を試みた。これにより、通信の専門家や関連事業者以外でも、現地での事前調査にかかるコストを削減しつつ、机上で3D都市モデルを活用した電波伝搬シミュレーションや最適な基地局配置の検討が可能となる。これらにより、全国での5Gの早期ネットワークの整備・活用を促進するとともに、これを活用した新たなサービスの創出を目指していく。