uc23-06

開発許可のDX v2.0

実施事業者アジア航測株式会社
実施協力長野県茅野市
実施場所長野県茅野市
実施期間 2023年12月
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都市空間の複雑な情報を、3D都市モデルを活用して統合管理。効率的な開発許可手続きを実現する開発許可申請管理システムを実装する。

実証実験の概要

市街地等において一定規模以上の開発を行う場合、都市計画法に基づく開発許可が必要となり、令和3年には20,591件の許可が全国で行われた。開発許可手続きの審査項目は多岐にわたり、行政担当者は多くの知識を求められるほか、申請の事前相談への対応件数が非常に多く、大きな負担となっている。また、事業者においても必要書類や相談先窓口が多く、申請・相談に時間や手間がかかるほか、場合によっては遠方の自治体へ訪問する必要がある等、負担が大きいことが課題となっている。

今回の実証実験では、2022年度に開発した「開発行為の適地診断・申請システム」を基礎に、開発許可申請管理システムを行政実務への実装フェーズに引き上げるための追加改修を行う。具体的には、昨年度開発したシステムでは自動化できていなかった前面道路幅員の自動判定機能、事業者と行政担当者のオンラインコミュニケーション機能、提出書類のバージョニング管理機能等を追加することで、本システムを実務利用可能なレベルとすることを目指す。

土地利用、都市計画、景観規制、環境規制、災害リスク等の様々なデータを統合してデータベース化

実現したい価値・目指す世界

開発許可制度とは、郊外における無秩序な開発を防止し、目指すべき都市の姿を実現するために設けられた制度である。申請を行う事業者側は、多岐にわたる部局や公共施設管理者との調整など様々な手続きを行う必要がある。申請を受理する行政側は、申請時に提出された膨大な情報を整理したうえで、総合的な検討を行い、適切に回答することが求められる。

このような開発許可に関する申請と審査の煩雑さから、事務負担の大きさや、関係者が情報を把握しきれないために既存の施策と整合しない開発等が行われてしまうことが懸念されており、都市行政の実務においても簡素化・簡便化が強く期待される分野の一つである。

2022年度の実証調査では、様々な都市空間情報を3D都市モデル(CityGML)に統合したうえで、これを活用した「開発行為の適地診断・申請システム」を開発し試験的に運用した。その結果、都市計画などに基づく必要な手続等を一覧表示する機能などにより、事業者・行政双方で大きな負担軽減効果があることがわかった。他方、道路台帳等の一部の情報は3D都市モデルに統合できなかったため、開発予定地周辺における道路幅員や歩道の要否などの把握は従来のPDF図面を目視で確認する必要があるなど、自動判定できていない領域が残った。また、システム上で事業者と行政担当者がよりスムーズかつタイムリーにコミュニケーションを取る必要性が課題として浮上した。

今回の実証実験では、昨年度開発したシステムに3D都市モデルの道路モデル(LOD2)を組み込むことで、従来は窓口において対面で相談対応していた道路確認業務を自動化・オンライン化し、システム上でやりとりを完結できるようにする。さらに、事業者と行政担当者がシステム上でオンラインコミュニケーションが取れる機能を追加するなど、UI/UXの改善を図る。これらの機能追加により、開発許可の申請・審査・管理システムを事業者・行政担当者双方の観点から実務利用に耐えるレベルに引き上げる。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、令和4年度に開発した開発行為の適地診断・申請システムに、「①前面道路幅員の自動判定機能」、「②事業者と行政担当者のオンラインコミュニケーション機能」、「③提出書類のバージョン管理機能」等を追加開発した。この開発により、窓口において対面で相談対応していた道路に関する確認の自動化、事業者と行政担当者による対面での事前相談・協議対応のオンライン化による事業者の来庁負担、行政職員の窓口対応負担が軽減できるかを検証する。

「①前面道路幅員の自動判定機能」については、新たに道路LOD2データから抽出した道路ポリゴン、道路幅員データ、道路中心線データを追加で搭載した。過年度の開発では、PostgreSQLを用いて地番図データ、区域区分等の都市計画データ、埋蔵文化財包蔵地区域データなど、開発許可の事前相談対応の判定に必要なGISデータをデータベースに搭載し、検索や申請判定に活用する機能を実装していたが、今回の実証実験では、さらに道路データを追加搭載し、より高機能化を実現した。
道路データを追加実装したことで、開発許可申請に係る前面道路に関する判定(都市計画法第33条第1項第2号に基づき、開発許可申請地に接する区域外の既存道路において、幅員が十分確保された道路に接続する設計となっているかの判定)を自動化することができた。具体的には、開発許可申請を行う事業者がウェブシステム上で開発予定地や開発予定面積・目的等の申請区分を入力すると、PostgreSQLの拡張であるPostGISの空間解析関数により、開発予定地から一定距離内に重なる道路LOD2データを前面道路として判定する。さらに開発予定地の重心から最近接の道路幅員データから最大・最小幅員を算出することで、最大・最小幅員を自動で表示するウェブアプリケーションを構築した。これにより、これまで自治体に訪問し、道路台帳図を用いて目視で行っていた前面道路の特定・幅員情報の取得をウェブシステム上で完結することが可能となった。

前面道路幅員を自動的に取得

「②事業者と行政担当者のオンラインコミュニケーション機能」については、開発許可申請を行う事業者がウェブシステム上で、行政担当者からの申請時提出資料への修正指示に関する問い合わせができる仕組みとした。行政担当者による修正指示の登録は、ブラウザ上で画像データへの図形や文字情報の書込みを行うライブラリであるmarker.jsや、tiff.js、pdf.js、ブラウザ上でPDF・TIFF形式のデータの表示・画像変換を行うライブラリであるPDFBoxを組み合わせることで、ブラウザ画面上でPDF・TIFF形式の申請時提出資料データを確認し、修正が必要な箇所を囲む、修正内容を文字で表記する等、紙図面に添削を行っていた作業をブラウザ上で対応できる機能を実装した。これにより、これまで自治体に訪問し、対面協議でやり取りを行っていた開発許可事前協議資料の確認・修正指示を、ウェブシステム上で完結することが可能になった。

ドキュメントの修正指示

「③提出書類のバージョン管理機能」については、PostgreSQLを用いて申請履歴をデータベース管理したうえで、申請履歴とステータスの更新や取得を行うAPI及び取得した情報に基づいた表示や更新内容の入力が可能なウェブアプリケーションを構築することで、行政担当者がウェブシステム上で図面・提出資料への修正指示を行い、事業者が修正内容を確認したうえで第N版(更新資料)の提出・管理ができる仕組みとした。これにより、申請時の協議資料を蓄積し、近域の事前相談が発生した際、行政担当者は、過去の協議内容を参考にしつつ、事前相談への回答が可能となった。

提出書類のバージョン管理

本システムの効果検証については、システム導入前後の開発許可に関する相談件数がどの程度削減されるかを評価した。また、システムのユーザビリティ検証については、茅野市と協力事業者であるスワテック建設が、本開発許可申請管理システムを模擬的に利用し、フィードバックを得た。

検証で得られたデータ・結果・課題

本システムの効果検証については、開発申請地の都市計画情報の参照など、開発地及びその周辺の情報を確認する業務において、昨年度の実証と同様、事前相談の件数の削減が見られた(実証前の8~9月平均:約70件/月、実証中の10~12月平均:約32件/月。なお、統計的に季節性による変動は僅少)。その一方で、道路台帳図の閲覧・説明を行っている所管課では、本システム導入前と比較して事前相談の件数の減少は限定的であった(同様に、約69件、約66件)。想定される原因は、今回の実装仕様では、前面道路幅員を自動で判定する機能を実装したものの、基盤となっている道路台帳図のデータに不明瞭な値が含まれており、該当箇所はシステムから窓口相談を促す案内を行っていたため、本システムのみで前面道路幅員の案内を完結できず、直接訪問し、所管課で相談を行うことにつながったと考えられる。また、道路台帳図は、データの電子化や更新に多額の費用がかかるため、本システム上で最新のデータを提供することができず、データ自体への信頼性が不足していることも窓口相談数が減らない一因となっている。道路台帳図の電子化や標準仕様の策定が進むことで、道路台帳図のデータのシステムへの取込みが容易になり、より信頼性の高い道路幅員案内が可能になると考えられる。

本システムのユーザビリティ検証において、前面道路判定機能は、開発を行う前の事前相談段階で必要な情報(有効幅員の概要、建築基準法上の道路種別)が取得できるとの評価を得られた。また、事業者と行政担当者のオンラインコミュニケーション機能は、相談時のやり取りや紙図面への修正指摘等、従来対面で行われていた相談対応をウェブシステム上で代替でき、窓口訪問及び窓口対応の負担を軽減できるとの評価を得られた。さらに、本システムが全国展開されれば、日本中どこでも申請ができるようになり、他自治体においても事務所で遠隔で事前相談が対応でき、自治体への訪問・協議対応を削減できる上で大きな利点になるとの感想を得られた。
加えて、2023年10月~12月の間、茅野市HPにおいて本システムを公開し、ウェブ形式でのアンケートによって、従来の手続きとの比較を検証した。このアンケートの結果では、従来の不動産調査等(開発許可等を含む)のための市役所への手続き・問い合わせと比較して、85%以上が「便利に感じた」と回答した。また、65%以上が「窓口訪問の負担軽減」につながると回答した。
また、行政担当者からは、各課の事業者への回答状況を管理する仕組みが必要との回答があり、各部署の対応状況の確認機能及び回答が遅れている担当課への催促通知機能が求められていることが分かった。

茅野市役所での実証の様子①
茅野市役所での実証の様子②

参加ユーザーからのコメント

<事業者からのコメント>

・前面道路の判定について、契約前の「事前申請(計画)」のためであれば、本機能で必要な機能はカバーできている、「楽になる」認識
・前面道路の判定について、「設計」段階になると詳細図面を作成する必要があるので、最大最小幅員のみならず、前面道路の全体の詳細幅員が必要になる
・道路台帳図データの更新頻度が少なく、判定結果のデータ自体の信頼性に疑問を感じている。最低でも1年に1度更新される仕組みとしてほしい
・本システムが全国展開されれば、日本中どこでも申請ができるようになるのは大きな利点
・墓地や道祖神(どうそじん)について、近くにあると嫌がる人が多い。草が茂っていると現地に行っても分からなかったりするので、データ上で整備されていると助かる
・都市計画道路や過去の開発行為の許可番号等の情報がシステムで確認できるとよい

<行政担当者からのコメント>

・申請者への回答に関して、庁内の複数部署の回答が必要な場合、各部署の対応状況が分かるとさらに良い(未回答課だけハイライトする、管理者が他の課の回答状況を見えるようにする、等)

今後の展望

今回の実証実験では、昨年度開発した開発許可申請管理システムを行政実務への実装フェーズに引き上げるための追加改修を行った。

前面道路幅員の自動判定機能については、道路LOD2データが持つ道路幅員データや道路中心線データを組み合わせることで、開発を行う前の事前相談段階において必要な前面道路の自動選定・前面道路の幅員情報が取得できる機能である。より多くの自治体にて道路LOD2データを整備することで、前面道路の自動選定・前面道路の幅員情報を取得できる行政サービスへの展開の可能性が高まると考えられる。

本システムのオンラインコミュニケーション機能については、従来対面で行われていた相談対応をウェブシステム上で代替ができるとの評価を得られた。今後、行政実務で活用するため、本システムを長期的に実証運用し、利活用状況をモニタリングしながら改善を続けることによって、他の自治体への展開の可能性が高まると考えられる。

さらに、本システムは事前相談手続きを対象としているが、本システムを通じて行政担当者が確認した資料は開発許可申請の本申請(都市計画法第29条)の提出資料としても活用できるものと考えられる。事前相談から本申請まで一貫して管理ができるシステムへと発展させることにより、本申請への対応まで実施している都道府県、政令指定都市、中核市、特例市でのシステム導入も視野に入れ、開発許可のDXの実現に寄与していく。