全国多自然川づくり会議は、多自然川づくりに対する知見の蓄積や意識の向上を目的とし、
平成15年頃から国・都道府県・政令市の河川担当者を対象として毎年開催しています。
12月17日、18日の二日間に渡って、さいたま新都心合同庁舎2号館5階会議室において、
「平成30年度全国多自然川づくり会議」を開催しました。
国⼟交通省 ⽔管理・国⼟保全局 河川環境課 課⻑補佐 福田勝之
「河川環境とは何か?」、「多自然川づくりに至るまでの経緯や考え方」の両者のつながりという観点でご講演いただきました。河川環境とは自然環境と生活環境に切り分けて考えることでより理解が深まるという説明や、改修は河川環境を改善するチャンスであることから、自然環境および生活環境をより良くできないか考えることの重要性、また人も生物も集まる環境を整備することによって、最終的には水遊びや水災害に対する理解につながっていくことについてご説明がありました。
国土交通省 水管理・国土保全局 防災課 災害査定官 齋藤 充
平成30年6月に改訂された「美しい山河を守る災害復旧基本方針」の変更内容についてご講演いただきました。「美しい山河を守る災害復旧基本方針」の策定から改訂に至るまでの経緯についてお話があり、平成30年改訂のポイントのなかでも、特に改良復旧への対応に関する内容として「河道計画の考え方」を取り入れられたという点を中心にご説明いただきました。
国立研究開発法人 土木研究所 ⽔環境研究グループ 河川生態チーム 上席研究員 中村 圭吾
「実践的な河川環境管理」についてご講演いただきました。環境目標の設定がなくとも、「現況の環境を保全するとともに、できる限り向上させる」という基本的な考え方で試行されている本手法について、評価手法の考え方・具体の方法についてご説明いただきました。また、定量的な状況把握のもと、河川改修・自然再生・維持管理などあらゆる場面で、環境改善を図ることの重要性についてお話がありました。
公益財団法人リバーフロント研究所 主席研究員 宮本 健也
現在検討を実施している多自然川づくりに関する技術資料である「大河川における多自然川づくりーQ&A形式で理解を深めるー」ついてご講演いただきました。大河川における多自然川づくりQ&A集の作成経緯、資料のポイントや資料の見方・活用場面等についてお話があり、いくつかの具体的なQuestionについてご説明いただきました。
岐阜大学流域圏科学研究センター 准教授 原田守啓
河川環境に関わるこれまでの議論の振り返りと、今後次の10年に向けてどのような取り組みを行っていくべきかについてお話いただきました。多自然川づくりに正解はなく、水系・地域によって、河川特性、河川管理に投入できるリソースも異なることから、多自然川づくりの「いい現場」の知見を共有し、各々の地域でも適用できる内容を取り入れていくというサイクルが、全国の多自然川づくりの技術をボトムアップされるというお話がありました。また、「小さな自然再生」によって地域が川づくりに参画する機会を増加させることについてお話があり、会場からは大河川へのバーブ工の適用可能性について質問がありました。
選出理由
非常に定量的に目標を設定しながら河畔林の管理を実施していること、樹木数の管理にあたって、モニタリングをしながら順応的な管理していく考え方が明確に示されていた。今年度は災害が多かったこともあり、樹木伐採に関する事例は、河川管理者にとっても関心が高まっていることから代表事例に選出した。
全体発表においてコメンテータより
・粗度管理を時間軸まで考慮した考え方でやっているのは素晴らしく、全国の直轄河川でも参考にしていただきたいと思う事例である。
・治水と環境の両立について、ここまでなかなか丁寧にしている事例はないので、大変感心した。ぜひ実際のデータで検証して、技術報告等をしていただきたい。
・高水敷の水深によって、河畔林を残せるか残せないかを評価しており、この水深であればどの程度河畔林を残すことができるかを整理されているのが重要。
選出理由
水衝部の課題解消とあわせて、礫河原の再生をするという目的が明確であった。砂州の切り下げの際に自然の営力を最大限使って効果を得ようと工夫されていた点に加えて、洪水中・洪水後の河床変動の状況を確認しながら再樹林化を防ぐための管理ルールも決めており、持続性という観点においても良い事例である。
全体発表においてコメンテータより
・かなりきめ細かくモニタリングされているので、何が起こっているかはきちんと把握されていると思うが、これが中長期的に安定した形になるかまだ見えない段階だと思う。
・阿賀川のような川では、切り下げした直後にかなり川が動き回る状況になるので、なかなか難しいと思うが、引き続き頑張っていただきたい。
・切り下げ深さと河原が増えた出水との関係性をもう少し追跡できればさらに面白いのではないか。
選出理由
都道府県で総合土砂管理計画を策定している事例は貴重であり、既存の発電ダムを切り下げてダムの通砂運用している先進的な事例である。様々な関係機関(県・市町村、電力会社、森林組合、内水面組合等)が協力し合って総合土砂に取り組んでおり、計画策定から流域住民の方々も主体的に参加されている点も良い事例である。
全体発表においてコメンテータより
・日本でここまでモニタリング調査をしっかりやっているのを初めて見たなというぐらい、事業を実施したことによって河川環境にどう影響があったのかというのを徹底的に科学的に検証可能な調査をされていて、素晴らしい事例。
・土砂管理にかかわる様々な関係者をつないだ仕組みをつくって、それぞれが役割を果たしていくというのは、大変苦労されたと思う。
・住民参加での生物モニタリング調査によって、住民にとってダム管理者の存在が身近になってきたのだと思う。今後も継続していくことで、地元、ダム管理者、県、河川管理者等の関係が非常に密になってくる。
選出理由
事業にあたって、河川管理者の考えを地域に押しつけて説得するというプロセスではなく、地域の方々に考えていただいてそれを河川管理者がサポートするという地域主導の進め方をしている良い事例である。
全体発表においてコメンテータより
・生き物と子供たちとの結びつき、川との結びつきというのは、山村地域と交流のツールとして非常に重要。
・バーブ工設置作業は中学生が行っており、子どもたちにとっては1時間程度の作業時間だと楽しい思い出となりちょうど良いのだと感じた。
・だんだんバーブ工の周りに土砂がうまいこと堆積していくと、かなり長持ちする状態になってくるのではないか。