3D都市モデル・不動産IDマッチングシステム
実施事業者 | 一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会/株式会社情報試作室/ 株式会社ミエルネ/インフォ・ラウンジ株式会社/株式会社トーラス/アジア航測株式会社 |
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実施場所 | 全国66市区町 |
実施予定 | 2023年4月〜2024年3月 |
3D都市モデルに「不動産ID」を付与するマッチングシステムを開発。3D都市モデルを介して不動産IDに紐づけられた様々な建物情報の利活用促進を目指す。
実証実験の概要
PLATEAUが提供する3D都市モデルの建築物モデルは座標によって現実の建築物と紐づけられているが、建物単位のインデックスを持っておらず、データベース利用に課題がある。他方、令和3年度に不動産を一意に特定できる各不動産の共通コードである「不動産ID」のルールが整備されたところである。
今回の実証実験では、3D都市モデルに不動産IDを付与するためのマッチングアルゴリズムを構築し、これを用いて建築物モデルのCityGMLファイルを入力すると、属性として不動産IDが付与されたCityGML(建築物モデル)が取得できるWebシステムの開発を行う。さらに、不動産IDが付与された3D都市モデルをLinked Open Data*化し配信するシステムを開発することで、不動産IDの利活用促進に向けた環境の構築を目指す。
*Linked Open Data:RDF(Resource Description Framework)と呼ばれるデータモデルを使ってWeb上で公開される他のデータと相互にリンクさせたオープンデータおよびその技術の総称
実現したい価値・目指す世界
我が国の不動産は、土地・建物のいずれも、住所・地番の表記ゆれにより同一物件かどうかが機械的に判別困難なケースが多数存在しており、多様な主体が保有する不動産関連情報の収集・名寄せが困難となるなど、データ活用における課題となっていた。これらの課題を解決するため、国土交通省では不動産を一意に特定することができるインデックスとして「不動産ID」を定義し、令和3年度には同省不動産・建設経済局により「不動産IDルールガイドライン」が策定・公表され、その活用が進められている。
今回の実証実験では、現実の建築物の座標値や形状を保持するPLATEAUの3D都市モデルの属性情報として不動産IDを付与することで、両者のデータ価値をさらに高めていくことを目指し、3D都市モデルと不動産IDをマッチングさせるアルゴリズムの開発を行う。また、このアルゴリズムを用い、3D都市モデルの建築物モデル(CityGMLファイル)を入力すると、「不動産ID付き3D都市モデル」を出力するWebシステムを開発し、3D都市モデルのデータ整備事業者等に提供する。
これらのシステムを用いて、実際に全国66市区町を対象として3D都市モデルへの不動産IDの付与を行い、これをオープンデータとして提供するとともに、Linked Open Dataとして利用可能な配信システムを開発することで、「不動産ID付き3D都市モデル」の利用拡大を図る。
また、2022年度に実施した「3D都市モデルを基礎としたIDマッチング基盤」において開発した3D都市モデルの建築物モデルと住宅地図や3D点群データなどの建物情報とをマッチングするシステムを組み合わせることで、3D都市モデル・不動産IDを介した様々な建物情報への不動産IDの紐づけを可能とする。
これらの取組みによって、不動産業界のみならず、行政や幅広い産業での不動産データ活用拡大への寄与を目指す。
検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
今回の実証実験では、3D都市モデルの建築物モデルに不動産IDを付与するマッチングシステム(以下「不動産IDマッチングシステム」という。)と、不動産IDが付与された3D都市モデルの建築物モデルをLinked Open Dataに変換し、配信するシステム(以下「Linked Open Data変換・配信システム」という。)を開発した。
システム実装に先立ち、3D都市モデルと不動産IDをマッチングさせるためのアルゴリズムを構築した。
不動産IDは、個々の不動産を一意に特定する番号であり、「不動産IDルールガイドライン」(令和4年3月国土交通省不動産・建設経済局)によりIDの付与ルールが定められている。不動産IDは、不動産登記法及び不動産登記規則に基づき、一筆の土地又は一個の建物ごとに付番されている不動産番号13桁と、特定コード4桁とで構成される17桁の番号となっている。不動産番号だけでは必要な不動産の範囲を特定することができない場合がある
ため、特定コードに関するルールが定められている。例えば、区分所有建物でない賃貸マンションの各戸の場合には、特定コードは部屋番号が用いられる(例えば203号室の特定コードは「0203」)。他方、特定コードを活用しなくても対象不動産を特定することができる場合には、特定コードは「0000」となる。
不動産IDの付与先となる3D都市モデルの建築物モデルは、建物を上から見た平面投影形状である建物ポリゴン(LOD0)としての地理座標情報を持っているが、所在地の地番(土地の場所や権利の範囲を示す登記上の番号)や住居表示(各家や施設などの場所を示す番号。いわゆる住所)などの情報は持っていない。その一方で、不動産登記には、不動産番号、所在地(地番)などの情報が含まれているが、地理座標情報は含まれていない。また、3D都市モデルの建築物モデルが所在地の情報を持っている場合でもその所在地は住居表示として付与されているため、不動産登記データの所在地情報である地番とは異なっている。このため、不動産IDと3D都市モデルの建築物モデルを地理座標情報や所在地の情報を使用して直接マッチングさせることができず、地番とその地理座標情報を併せ持つ登記所備付地図(不動産登記法第14条第1項に規定される図面で、一般に14条地図と呼ばれているもの。)を介在してマッチングすることとした。
このため、法務省より公表されている登記所備付地図(XML形式で提供)をG空間情報センターから入手して使用した。
不動産登記データと14条地図を結合したテーブルを作成することにより、地理座標をベースとした3D都市モデル(建築物モデル)とのマッチングが可能となるが、ひとつの筆の上に複数の建物が建っているケースなど、土地ポリゴンを利用した空間的な重なりだけのマッチングでは不動産IDを1対1で建物に付与できない場合がある。
このような問題に対応するため、建物の属性情報を使用したマッチング補正を行う仕組みを構築した。具体的には、空間的な重なりの度合いに対する評価に加え、建築物モデルが持つ建物高さ、面積、構造、用途などと、不動産登記データに含まれる階数、床面積、構造、種類などとの一致の程度をそれぞれ点数化し、その合計点をマッチングスコア
(100点満点)として算出し、マッチングスコアに対して閾値を設けることで、マッチングの有無を評価することとした。
上記のアルゴリズムを利用した不動産IDマッチングシステムは、建築物モデルに対応する不動産IDを特定するための空間データ変換機能と、実際に建築物モデルに不動産IDを付与する機能の2つの機能によって構成される。空間データ変換機能は、不動産登記データに含まれる所在地(地番)情報と、3D都市モデルの建築物モデルの接地面図形(LOD0)の地理座標値を突合することで不動産IDの特定を行う。不動産ID付与機能は、CityGML形式の3D都市モデルを読み込み、空間データ変換機能によりマッチングさせた不動産IDを付与したうえで再度CityGML形式でファイルを出力する。基本システムの開発にはPythonを、データベースにはPostGISを使用した。また、ユーザインタフェース構築のためにJavaScriptライブラリのReact.jsを使用した。
空間データ変換機能では、登記所備付地図(14条地図)と不動産登記データを地番で突合し、不動産番号を基に生成した不動産IDを登記所備付地図(14条地図)の各筆に付与し、3D都市モデルの建物データとのマッチングのベースとなるデータを生成する。具体的には、まず登記所備付地図(14条地図)のデータを読み込み、土地の不動産登記(不動産登記の「表題部(土地の表示)」)に記載のある土地の単位である筆ごとに、それを示す一
意のコードである「筆コード」と筆ポリゴンの代表点(地理座標)を重心(重心が筆ポリゴン外となる場合は筆ポリゴン内の近傍点)に配置されるように生成し、データベース(PostGIS)に格納する。この処理には、地理空間情報データフォーマットのための変換用ライブラリであるGDALを使用する。
次に、格納された筆コードと代表点を不動産登記データの所在地(地番)に対応させたテーブルデータであるジオコーダ用辞書データを作成する。地理座標で表現された代表点との突合のため、不動産登記データの所在地(地番)から地理座標を取得するジオコーディングには、住所ジオコーダライブラリのJageocoderを使用した。その後、土地の不動産登記から、所在地(地番)と対応する不動産番号を取得し、地番に対応する筆コードのレコードに土地の不動産IDを付与する。また、建物の不動産IDについては、建物の不動産登記(不動産登記の「表題部(主である建物の表示)」)に含まれる各建物の不動産番号に特定コードを付加することにより不動産IDを生成し、データベース(不動産ID空間データ)に登録する。
これによって不動産ID空間データの各レコードに、地番に対応する筆コードと建物および土地の不動産ID、不動産登記データに含まれる建物に関するデータ(建物構造等)が登録される。
不動産ID付与機能は、ウェブ上で利用可能なシステムとし、ユーザーがアップロードした3D都市モデルデータ(CityGMLファイル)を読み込み、空間データ変換機能で生成した不動産IDと筆の空間属性(座標)のテーブルである不動産ID空間データを用いて3D都市モデルの建築物モデルを地理空間座標によってマッチングさせる。マッチングした不動産IDは建築物モデルのuro:bldgRealEstateIDAttribute(CityGMLのタグ)に格納され、PLATEAUの標準製品仕様書に則ったCityGMLファイルとして出力(最新の「3D都市モデル標準製品仕様書」では不動産IDを格納するためのタグが標準化されている)。ユーザーによりダウンロード可能とする。
具体的には、ユーザーによってアップロードされた3D都市モデルの建築物モデルのデータの接地面図形(LOD0)と空間データ変換機能で作成した空間属性と不動産IDが付与された建物データを空間演算により重ね合わせ、マッチングの結果をPostGISのテーブルに格納する。また、マッチング補正についても同時に行われ、スコアを算出する。マッチングの結果を踏まえ、3D都市モデルの建築物モデルに不動産IDを付与し、ファイルに出力する。ここでは、ジオメトリの取得・参照には地理空間情報を処理するためのライブラリであるGEOS(Geometry Engine Open Source)を、マッチングアルゴリズム実装にはPython使用する。
このマッチングアルゴリズムは、手作業で作成した正解データとの比較を行い検証した。
Linked Open Data変換・配信システムは、不動産IDが付与された3D都市モデルの建築物モデルをLinked Open Dataに変換する機能と、それを配信する機能の2つの要素で構成される。
Linked Open Dataへの変換機能では、不動産IDが付与された3D都市モデルの建築物データについて、建物単位でgml:IDを含む形で生成したURI(Uniform Resource Identifier)を識別子として付与し、RDFに変換する。ここでは、XMLをパースするためにfast-xml-parser を使用する。
Linked Open Dataの配信機能では、Linked Open DataへのアクセスにSPARQLサーバー経由とLinked Open Dataサーバー経由の2通りの方法を用意する。SPARQLとはRDFを検索するためのクエリ言語である。
SPARQLサーバーにおいては、利用者から建物が持つ属性の条件を指定したクエリを受け付け、該当する建物のリストを返送する。Linked Open Dataサーバーにおいては、利用者から建物の不動産ID又は建物ID(gml:ID)をクエリで受け付け、該当する建物の Linked Open Data を返送する。Linked Open Dataの中に該当する建物を含むCityGMLのダウンロードURLが記載されており、それを通じて不動産ID付きの3D都市モデルの建築物データ(CityGML)を取得できる。
検証で得られたデータ・結果・課題
不動産IDマッチングシステムの実証実験では、本システムのアウトプットの実務における有用性と、システムのユーザビリティの2点について検証した。
アウトプットの実務における有用性として、空間データ変換機能で特定された不動産IDと3D都市モデルのマッチングを評価するマッチングスコアの閾値に対する、不動産ID付与機能の性能を再現率(登記所備付地図(14条地図)の筆ポリゴンデータに付与された建物登記データの総数を分母とし、付与された不動産IDを分子とした際の割合)と適合率(付与された不動産IDがマッチングスコアの閾値を上回る場合)の2つの指標で評価した。
その結果、おおよその自治体ではマッチングスコア50点を閾値とした場合、再現率はほぼ100%であるが、適合率は60%〜66%であり、正しい不動産IDが付与されている建物の割合が低下する結果となった。他方で、マッチングスコア75〜85点を閾値とした場合は、再現率は65%〜97%に低下するものの、適合率は73%〜97%となり、正しい不動産IDが付与されている建物の割合が増加する結果となった。これによりマッチングスコアの閾値を調整することで、再現率と適合率をコントロールできることが分かった。不動産IDを全てシステムに自動付与させるケース、手動付与と協調し精度を高めるケースなど様々なユースケースに対応できるシステムとなっている。
今回の実証実験で付与した不動産IDは、3D都市モデルの属性情報としてマッチングスコアとあわせて格納し、オープンデータとして公表している。その際、上記の評価結果を踏まえ、利用者の判断のもとでより多くの建物に不動産IDを付与可能(再現率100%)となるマッチングスコア50点を閾値として採用することで、原則としてすべての利用者にとって利用しやすいデータとした。
3D都市モデルの建築物モデルの総数に対する不動産IDの付与率は、大分県日田市で69%、香川県高松市で60%、広島県府中市で7%、今回の実証実験の対象とした66市区町全体で8%であった。大分県日田市は、登記所備付地図(14条地図)がほぼ全域で整備されている。また香川県高松市では、登記所備付地図(14条地図)の整備域は市全域の70%程度であるが、3D都市モデルの整備域は登記所備付地図(14条地図)の整備域にほぼ含まれていた。一方、広島県府中市では、3D都市モデルの整備域が登記所備付地図(14条地図)の
整備域以外のエリアに多く存在していた。このように付与率は、登記所備付地図(14条地図)の整備範囲と3D都市モデルの整備範囲の重なりの程度に依存していることが分かった。
適合率を上げるためには、3D都市モデルの建築物の属性への情報の入力を充実させることが必要であり、また付与率を向上するには、登記所備付地図(14条地図)の整備範囲の拡大が望まれる。
システムのユーザビリティの確認として、不動産IDの付与時間やシステムのユーザインタフェースの評価を行った。付与にかかる時間は1都市あたり10分かからない程度であり、業務利用において概ね耐えられる時間であるという評価を得た。また、アップロードのファイル数の制限はなく、ファイルサイズの制限は3D都市モデルの制限と一致していることもあり、対象自治体の全ファイルを一度にアップロードが可能である点が好評価であった。改善点として、不動産IDの付与結果を提示する仕組みが無いことから、どの程度付与されたかを数値として確認できるとよいという意見や、事前にどの程度付与できるかが分かると良いという意見があった。
また、Linked Open Data変換・配信システムの実証実験ではシステムのユーザビリティについても検証を行った。3D都市モデルの属性をWeb上で検索できる点は、有用との意見が出された。検索用テンプレートについては、3D都市モデルとしての基本的な検索については理解されたものの、AND・OR検索などの基本的な条件付けのサンプルが欲しいといった要望があった。
参加ユーザーからのコメント
【不動産IDマッチングシステム】
・ 不動産IDの付与に要する時間は、作業上、概ね耐えうる時間である。
・ 少量ずつのファイルアップロードでは作業に支障があるため、対象自治体のファイルを一度にアップロードできることは良い。
・ 不動産IDをどの程度付与できたか、ファイル単位で把握できると良い。
・ 登記所備付地図(14条地図)の整備状況から、不動産IDが付与できない可能性もあるため、事前にどの程度付与できそうかを把握できるとよい。
・ 不動産IDの付与結果の信頼度がわかる精度管理表のような資料もあるとよい。
・ 不動産IDを付与できない場合の傾向を整理してほしい。
【Linked Open Data 変換・配信システム】
・ 今まで、3D都市モデルの属性を検索する仕組みがなかったため、Webで検索でき、結果をリストとして出力できることは有用である。
・ 検索用テンプレートについて、AND検索、OR検索など、事例を追加して欲しい。
・ Linked Open DataとSPARQLの使い方講習会などを開催していただけると良い。
今後の展望
本システムにより、3D都市モデルへの不動産IDの付与ができるようになるとともに、3D都市モデルの地上階数、床面積、建築物の計測高さのほか、建築年、構造、用途などの属性を用いることで、付与率の向上や、付与した不動産IDの正確性の評価を行うことが可能となった。
付与率については、3D都市モデルの属性をマッチングに用いることで不動産IDの付与率の向上を実現できた一方で、本システムで使用した3D都市モデルの属性以外に、不動産登記データに含まれる情報と比較可能な属性がないため、不動産登記データに基づくマッチングではこれ以上の付与率の向上は困難であることも明らかとなった。
他方で、本システムを利用するために必要となる登記所備付地図(14条地図)については、全国で十分に整備されていないのが現状であり、不動産IDの付与率を大幅に向上させるには、利用可能な登記所備付地図(14条地図)の整備が重要である。
また、登記所備付地図(14条地図)には、今回使用した実世界における位置座標の情報を持つ公共座標系のデータ(「14条1項地図」と呼ばれる。)のほか、実世界における位置座標の情報を持たず本システムでの利用が困難な任意座標系で作成されたデータ(「14条4項地図」と呼ばれる。)も多く存在している。これらを公共座標系のデータに変換することができれば、不動産IDの付与率の大幅な向上が期待できる。ただし、任意座標系のデータから公共座標系のデータへの変換には位置合わせ等の膨大な作業が必要であるため、AI技術を用いて作業を効率化する技術開発が求められる。