uc22-012

開発許可のDX

実施事業者アジア航測株式会社
実施場所長野県茅野市
実施期間2022年11月〜12月
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都市空間の複雑な情報を3D都市モデルを用いて統合し、煩雑な開発許可手続きを効率化する。

実証実験の概要

市街地等において一定規模以上の開発を行う場合、都市計画法に基づく開発許可が必要となり、令和元年では2万件以上の許可が全国で行われている。開発許可制度は、申請のあった開発行為が対象エリアの土地利用の計画や災害リスク等の状況と適合しているかの審査を行うものだが、審査に必要な、関連資料の収集や関係者との協議等が多岐にわたるため、審査側の行政と申請側の民間の双方で多大な事務負担となっている。

今回の実証実験では、土地利用、都市計画、各種規制等の情報を3D都市モデルに統合し、対象エリアにおける開発行為の適地診断・申請システムを開発する。これにより、事業者の情報収集と行政側の審査の双方の事務の効率化を図る。さらに、複雑かつ多岐にわたる都市に関する各種規制を可視化することで、行政機関による総合的な観点からの立地誘導施策推進等に貢献することを目指す。

実現したい価値・目指す世界

開発許可制度とは、郊外における無秩序な開発を防止し、目指すべき都市の姿を実現するために設けられた制度である。申請を行う事業者側は、多岐にわたる部局や公共施設管理者との調整など様々な手続きを行う必要がある。申請を受理する行政側は、申請時に提出された膨大な情報を整理したうえで、総合的な検討を行い、適切に回答することが求められる。

このような開発許可に関する申請と審査の煩雑さから、事務負担の大きさや、関係者が情報を把握しきれないために既存の施策と整合しない開発等が行われてしまうことが懸念されており、関係する情報を統合し、効率的かつわかりやすく適地診断を行う仕組みが必要である。

CityGML形式により標準化されているPLATEAUの3D都市モデルは、多様な空間情報を統合するフォーマットとして機能する。この特性を利用し、土地利用、都市計画、景観規制、環境規制、災害リスク等の様々なデータを3D都市モデルに統合してデータベース化し、開発行為の申請に対して適地診断を行うことができるシステムを開発する。これにより、ワンストップかつオンラインで申請と審査が可能となり、行政と民間の双方の事務作業を効率化する。また、各種情報を総合し、近隣の申請状況や相談履歴と照らし合わせた審査を可能とすることで、目指すべき都市の姿と整合した立地誘導施策等の推進への貢献を目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、空間情報を三次元表示可能なCesiumJS及びTerriaJSをフロントエンドで利用するとともに、PostGIS(空間情報を管理するOSSのデータベース拡張機能)とGeoServer(空間情報を共有するOSSのGISサーバ)を組み合わせ、空間解析機能及びリレーショナルデータベースをバックエンドで統合したウェブシステムを開発した。開発許可申請を行う事業者が画面上で開発予定面積や目的等の申請区分を入力すると、筆界や都市計画等のDBが参照され、開発予定地における開発許可の概況診断結果を示す仕組みとしている。例えば、景観に関する手続きについては、事前相談の要否、関連する手続きや規制、問合せとなる所管課などを示すほか、景観づくり条例区域を3D都市モデルに重畳し、対象区域を視覚的に示すことができる。その他、開発したシステムには、①地番図を用いた検索機能、②概況診断結果のレポート出力機能、③行政担当者への申請機能、④行政担当者の申請情報検索及び回答確認機能を実装した。これらの機能により、申請者はワンストップで開発許可申請の情報を行政に共有し、行政側も担当部局それぞれがウェブ上で必要な指導、資料のやり取り、照会回答等ができるようになる。

データベースシステムであるPostGISでは、災害リスク情報や都市計画決定情報のほか、屋外広告物区域データ、埋蔵文化財法蔵地区域データなど、開発許可の事前相談対応の判定に利用可能なGISデータを格納した。データベースはCityGML形式データを管理可能な設計としている。

検証では、システム導入前後の開発許可に関する相談件数・相談対応時間を比較することにより、事前相談の件数がどの程度削減されるのかを評価した。

開発許可申請の検証
申請事業者を交えた意見交換

検証で得られたデータ・結果・課題

これまで開発許可の事前相談を申請者が行う場合、相談内容が複数課にわたるため、申請者が各課を訪問し、個別の打ち合わせが必要であった。各課担当者は都度業務を中断して対応し、事業者は待ち時間が発生していたが、本システムにより事業者は市役所を訪問することなくオンラインで判定結果を取得できるようになった。

今回のシステム検証により、行政側では、開発許可に関連する8つの部署の事前相談の件数を、導入前の10月と比較し、11月は約27%、12月は約37%減少できた。特に開発申請地の災害リスクの確認や防災設備の確認など、開発地及びその周辺の情報を確認する業務については顕著な削減がみられ、一部の部署では月20件程度発生していた対応件数が0件となるなど、大きな効果がみられた。

また、事業者は別荘の開発相談等で遠方から訪問する場合も多い。今回の検証により、事業者の訪問のための移動時間(片道平均1時間、最大3時間程度)や待ち時間の削減など、情報収集にかかる負担軽減を確認できた。

一方で、実装への課題として、行政機関の端末性能に関する制約上、3D地図の描画速度は改善が必要となる。茅野市では、シンクライアント環境(コア数28、RAM28GBを30端末で共有)のため、3D地図の描画速度が遅く、窓口でレポート発行などを行う場合は、システム専用端末が必要であった。

また、道路台帳図の閲覧・説明を行っている一部の所管課では、システム導入前の10月と比較し、事前相談の件数の減少は少なかった。これは、茅野市運用方針上、公開する道路台帳平面図は台帳要素を除いた画像のみであり、システムでの開発予定地情報から前面道路の管理者等の判定を行えず、所管課での相談が必要となったためである。

また、庁内各課が保有するデータを鮮度高くシステムに速やかに反映し、窓口相談と同等の信頼性を確保する方策を確立することなども課題として明らかとなった。

予定地の概況診断結果
開発許可申請(確認画面)
申請管理画面
回答入力画面

参加ユーザーからのコメント

事業者からは、手続きの時間の効率化につながった一方で、公開データの更なる拡充を求める意見があった。行政担当者からは、担当業務の一部をシステムに委任できる期待がある一方で、行政機関の端末制約を考慮したシステム構築の必要性についての意見があった。

【事業者:システム利用アンケートより抜粋】

・素晴らしいシステムで大変感動した。調査が3時間⇒30分くらいで終わりそう
・このくらいアクセスしやすいといい
・道路台帳の取得などワンストップがありがたい。上下水の記録について最新データがほしい

【行政職員:システム利用アンケートより抜粋】

・これまでのGISシステムは情報公開までだったが、行政による“案内”も一部担うことができたのが大きい
・どの担当課が回答すべきかをシステムで振り分けしてくれる仕組みは行政の効率化に大きくつながる
・行政機関の端末に制約があるため、低性能端末でも動作する3Dビューワがほしい

今後の展望

これまでアナログ対応を行ってきた開発許可申請の事前相談をシステムに代替させることにより、事業者の情報収集にかかる負担の軽減、行政職員の窓口対応件数の減少など双方にとっての事務の効率化が確認された。行政職員は、窓口での相談があるたびに通常業務を都度中断して対応しているが、システムが導入されることで相談への対応自体が減るうえに、システム上で寄せられる相談については1日の決まった時間にまとめて確認する対応が可能となり、より効率的に働くことが可能となる。また、行政側は該当する規制情報等を一覧として地図上で確認できることにより、都市構造全体を俯瞰して地域の開発状況を確認し、政策立案等を検討することができる。

本システムの機能面として、開発許可申請書類に対する指摘やコメントをチャット等でスムーズにコミュニケーション可能とするなど、事業者及び行政担当者双方のUXを向上させるための改良が必要である。

また、判定に用いる空間情報のデータを拡充することで他の業務での横断展開が期待される。例えば、道路台帳図は幅員情報等の台帳要素が搭載されていない図面を閲覧させるのみとなったが、幅員情報を取得(計測)したい等、道路についての要望が複数寄せられた。画像で管理されている情報や電子化されていない情報がデータベース化されることで、道路LOD1を用いた前面道路の判定、事前協議先機関や都市計画法第32条に基づく同意書・協議書の要否案内、幅員計算、道路LOD2を用いた歩道整備要否の案内など開発許可に関する事務作業以外への活用が期待される。