uc22-022

まちなかウォーキングのための健康アプリ

実施事業者エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 / アジア航測株式会社
実施場所岐阜県岐阜市市街地周辺
実施期間2022年4月~2023年2月
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3D都市モデルを用いたウォーキングコースのレコメンドアプリを開発。まちなかを用いた健康まちづくりを目指す。

実証実験の概要

岐阜市では未来にわたり持続可能な都市を目指し、健康上の問題がない期間である「健康寿命」を延ばすことを課題として掲げている。健康寿命を延ばすためには、日常生活の中での適度な運動といった生活習慣に関する取組みが効果的であり、「クアオルト健康ウォーキング」の要素を取り入れた事業を推進している。

今回の実証実験では、日常的なまちなかの移動時に運動効果の高いウォーキングができるよう、3D都市モデルの詳細な道路モデルやユーザの属性情報を活用したウォーキングコースのレコメンドおよびウォーキング後のフィードバックを行うアプリを開発する。開発したアプリを用いてフィールドでの実証を行い、アプリの有用性や市民の健康意識への啓発効果を検証する。

実現したい価値・目指す世界

「クアオルト健康ウォーキング」はドイツのクアオルト(療養地)で用いられているウォーキングによる運動療法を基に考案された健康づくりのためのウォーキング方法であり、路面の勾配や変化を活用し、適度に運動負荷を上げた状態でウォーキングを行う点が特徴である。岐阜市では「クアの道」として、「金華山・長良川・岐阜公園」、「百々ケ峰・ながら川ふれあいの森」の2コースが認定されているが、市街地から離れており、日常的にこのコースを用いたウォーキングを行うことは難しい。

まちなかでも勾配や階段のある道を歩くことで、「クアオルト健康ウォーキング」に近い運動効果を得ることが可能であるが、ユーザに応じた最適なコースを選択するための具体的な手法が確立されていなかった。

今回の実証実験では、3D都市モデルの詳細な道路モデル(LOD3)の持つ勾配や舗装の情報を活用し、適切な運動強度が確保できるウォーキングコースをレコメンドするアプリケーションを開発する。このため、目的地までの最短経路ではなく、目的地まであえて遠回りして勾配や階段、歩道橋等を通るなど、運動効果の高いまちなかウォーキングコースを算出する経路探索アルゴリズムを開発する。また、レコメンドしたコースを実際にウォーキングした結果について、脈拍数等をベースとしたバイタルデータを3D都市モデル上で可視化し、健康コースとしての評価(フィードバック)を行う。これらにより、市民に対する健康意識の啓発とどこでも健康的なウォーキングができる街づくりにつなげることを目指す。 

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証で開発したまちなかウォーキングのための健康アプリ(以下、健康アプリ)は、地図上で始点と終点を選択するとクアオルト要素を考慮した適切な負荷のかかるウォーキングコースを自動計算し表示する「レコメンド機能」と、ウォーキング結果を運動負荷の観点で採点し、経路上に負荷の度合いを表示する「フィードバック機能」から構成される。さらに、レコメンド機能にはコース計算に加え、コースをバーチャルウォーキングする「ウォークスルー機能」を搭載した。

健康アプリは使用するデバイスに依存せず利用できるようWebアプリケーションとした。実装としてはWebフレームワークにBootstrap、3Dデータの描画を行うことが可能なCesium、画像変換にGdal2tiles.py、点群データ変換にLAStools、地点間の距離測定にturf.js、レコメンドルート探索にPgRouting(PostgreSQLデータベースの拡張機能)を利用して構築した。

レコメンド機能は、段差や幅員などのバリアフリー情報を保持する「歩行空間ネットワークデータ」(国土交通省政策統括官付策定「歩行空間ネットワークデータ等整備仕様案(2018年3月版)」)に準拠したリンクとノードからなるネットワークデータにクアオルト健康ウォーキングの要素を取り入れた独自の重みづけを加え、ルート探索手法のダイクストラ法を基にルート検索することで、適度な負荷を与えるウォーキングルートを表示するものである。

歩行者ネットワークデータは、道路台帳現況平面図(経路の構造・路面状況・車通行可否)及び航空写真(経路の構造・経路の種別・屋根の有無・樹木)をリンク属性情報の入力として、都市計画基本図をリンク及びノードの入力基図として活用することで作成した。

本アプリケーションは、普段歩行習慣のないユーザに対して、最短距離ではなく安全性(歩道、屋根有り)と運動負荷(勾配有、歩道橋)を考慮したルートをレコメンドする。推奨距離として約2km(歩行時間30分程度)のコースを設定した(ユーザの趣向に応じてレコメンドコースの距離を自由に変更できる)。

レコメンドのアルゴリズムとしては、クアオルト要素(負荷、安全、気分、避暑)を対応する属性情報(勾配、歩車区分あり、樹木、屋根)と紐づけ、当該属性情報ごとに設定された優位度に基づき算出された重み係数を、各リンクの長さと掛け合わせ、それらを各リンク毎で集計することで、各リンク毎の重みづけを設定した。

フィードバック機能は、ウェアラブル端末を用いて取得した時刻、脈拍数、位置データを取り込み、ウォーキングの軌跡に運動負荷を重ね合わせて地図上に表示することで容易に自身のウォーキング結果を振り返ることができるものである。具体的には、「160-年齢」を基準値とし、基準値と脈拍数と比較した結果をウォーキングの軌跡に合わせて3段階で色分けして表示した。さらにウォーキングした全行程の内、心拍数の基準値±15以内となった割合を5段階で評価している。デバイスとしては、カシオ計算機のスマートウォッチ“GSR-H1000AS”とNTTPCコミュニケーションズの“みまもりがじゅ丸(デバイス名:amor H2 Pro)”を使用してバイタルデータの測定を行った。実装はバイタルデータ(CSV形式:緯度・経度・心拍数・時刻を測定)の緯度・経度を利用して位置を特定し、その位置に応じた心拍数とウォーキングした軌跡を、地図上に表示する仕組みとした。

ウォークスルー機能は、レコメンド機能が示したウォーキングルートをWebGISを用いて三次元的に可視化できる機能である。レコメンド機能は上下移動を含む推奨ルートを提供するものであるため、二次元地図上で表示するだけでは事前にルートのイメージを掴むことができない。このため、3D都市モデル(建築物モデル、道路モデル等)をベースに点群データなどを活用した3D地図を作成し、これにウォーキングルートを重ね合わせることで、ユーザがリアリティをもってルートを事前にイメージできる環境を構築した。実装は、Cesium(Cesium JS・Cesium ion)を用いた。

一般市民によるアプリ体験
ウェアラブル端末によるバイタルデータ計測

検証で得られたデータ・結果・課題

岐阜市在住または岐阜市内勤務の20代~50代の約20名に、開発したアプリを1カ月程度継続利用してもらい、集計したアンケート結果を基に健康アプリの改善を行った。

さらに改善後の健康アプリを用いて岐阜市在住の50~80代の約20名を対象としたイベント形式での実証を実施し、健康アプリの操作やウォーキング体験後に、アプリの有用性やユーザビリティ等についてのアンケートを取得した。

本アプリケーションの開発目的である、ウォーキングに対する意欲向上につながる旨については、どの年齢層からも肯定的な回答を一定数得られ、特にイベント形式の実証では約70%から意欲向上につながったとの回答を得た。

レコメンドされるコースの意外性などについても、一部参加者より興味をかき立てられるとの評価があり、あえて遠回りするレコメンド機能にニーズがあることを確認した。

一方で課題として、3Dの画面操作や見たい情報の表示方法が複雑である点、バイタルデータ等の取得には専用のウェアラブル端末や別のアプリを用いる必要がある点等があり、誰でも簡単に操作できるようUIや操作性の改善を求める意見があった。

レコメンド機能では、お気に入りコースの保存や経由地点を任意に設定するなどの追加機能をアプリに反映してほしいといったカスタマイズ機能の要望や、コース探索時に考慮する項目(趣味・趣向など)の充実に関する意見が目立った。

ウォークスルー機能については、点群データや3D都市モデルの表示に高スペックな機器が必要となり、スマートフォンでは十分な画質、描画速度を得られなかった。

様々なスキャナで撮影した点群データとLOD2による空間表現
レコメンドコースとウォークスルー表示
LOD3道路モデルによる歩車分離表示
スマートフォンでの画面表示とウェアラブル端末

参加ユーザーからのコメント

参加者からは以下のような意見があった。

・歩くのが楽しみになるような気がする。
・対象エリアを拡大してほしい。
・色々な年齢層にも理解しやすくしていけば利用する人も多くなると思う。
・スタートとゴールだけでなく、中間地点も設定できるとよい。
・ひとつの機材で完結できるようにしてほしい。いろいろ持ち運ぶのは重量もあり大変。
・事前に好みのコース傾向を入れておいてそれに対応したコースを推薦してほしい。(例:大通り回避、このエリアは歩きたくないなど)。
・目的地までの想定到着時間があると、通勤時に使いやすい。
・コース探索で同じ道を往復可能とするよう、ルートは改善してほしい。

今後の展望

「スマートシティぎふ推進プロジェクト」の計画に基づき、市街地再開発ビル「グラッスル35」内に健康・運動施設「ウゴクテ」が2023年4月30日よりオープンする。ウゴクテと連携し健康アプリを活用することで、岐阜市民の健康増進に向けたウォーキングプログラムの創出にも役立てることができる。

アンケート結果に基づき、誰もが使いやすいシステムを目指してUIの改善だけでなく、継続して活用したくなるためのカスタマイズ機能の開発、個人毎に最適なコースをレコメンドするアルゴリズムの検証、ウェアラブル端末との連係強化などUXの改善に向けた検討を進める。

さらに計測したバイタルデータをもとにPHR(Personal Health Record:デジタルを活用して個人の健康・医療・介護に関する情報を一元的に保存したデータ)とのリアルタイムでの連携による分析が可能となれば、市民への健康増進に対する見える化など多面的な応用にも期待できる。

その他、アプリの入力データとなる各エリアにおける歩行空間ネットワークデータ等の自動生成化が実施されることで、アプリを他地域に水平展開することが容易になると考えられる。

今後、クアオルト健康ウォーキングによる健康まちづくりの全国展開に向け、まちなかウォーキングの活性化に向けた取組が益々重要になってくる。本アプリのUI/UX等を改善するとともに、システムの汎用性を高めていくことで、本アプリを活用した健康まちづくりの全国展開を推進していく。