建設産業・不動産業

環境不動産の経済的価値


  環境価値の高い不動産が市場で評価されるためには、その価値が入居者、オーナー、ディベロッパー、投資家など多様な市場参加者にとって
  わかりやすいことが必要です。しかしながら、環境性能が高い不動産の市場価値について経済分析を実施した研究は多くありません。
  環境価値の高い不動産は、市場で高く評価されているのでしょうか。
 

国内における環境不動産の経済的価値に関する分析事例

環境マネジメントの経済分析  (2015.7)

株式会社ザイマックス不動産総合研究所 吉田 淳、大西 順一郎
 

環境認証の有無による新規成約賃料への影響

  • 東京23区内に立地するオフィスビルのデータを用いて、環境認証の有無が新規成約賃料にプラスの影響を与えるかという分析を行った。
環境認証を取得したオフィスビルは、未取得オフィスビルと比較して新規成約賃料が4.4%程度高いとの分析結果を得た。
 

物件の特徴による影響の度合いの違い

  • データサンプルを似たような特徴をもつグループに層別化して分析した。 
  • 大規模で築浅の物件が多い層
   環境認証の有無による新規成約賃料への影響は、明確には確認されなかった。規模や新しさ、グレードなどすでにテナントにとって魅力を
   感じる要素を備えており、環境認証が加わることによる更なる賃料のプラスには結びつきにくいなどの背景があるためと考えられる。
  • 中規模の物件が多い層
   全体の4.4%に対して、中規模の物件が多いグループでは、環境認証を取得したオフィスビルは未取得オフィスビルと比較して9.6%程度新
   規成約賃料が高いとの分析結果を得た。規模や新しさ、性能など「標準的な物件」においては、環境認証が環境マネジメントの品質を表す
   ものとして評価されているといえる。
  • 小規模で築古の物件が多い層
   環境認証を持つサンプルが少ないこともあり、影響の度合いは誤差が大きく明確には分からない。プラスの影響があるのか、この層の利用
   者にとって魅力と感じにくく影響がないかは、環境認証の今後の普及状況により判明するものと考えられる。  
 

環境不動産普及拡大の契機作り~ESG投資の動向と経済効果調査を中心に~  (2015.3)

株式会社三井住友信託銀行 伊藤 雅人
 

経済効果調査の概要

  • 主要都市に所在するCASBEE 評価を受けた賃貸オフィスビルを対象にCASBEE 評価と経済性、知的生産性評価との関係を検証
  • 全体的な傾向として、CASBEE 評価を受けたビル群の平均賃料は、全ビル群の平均賃料よりも高く算出された。重回帰分析では、CASBEE 評価を受けたビルであることにより、賃料は564 円/月・坪(平均賃料比約3.6%)高くなるとの推計結果となった。また、CASBEE ランクによる差を評点化して分析したところ、1 ランク(例.A→S)上昇するごとに264 円/月・坪(平均賃料比約1.7%)上昇する推計結果となった。
  • 知的生産性の向上量が賃料におよぼす影響についても分析した。その結果、知的生産性が1%向上すると賃料が319 円/月・坪(平均賃料比約1.9%)上昇する推計結果となった。
 

環境不動産の経済価値の評価・分析について  (2010.3)

環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会
 

日本の不動産市場において、環境に配慮した不動産(環境不動産)の付加価値はどの程度評価されているかを分析するために、ヘドニックアプローチとCVM(仮想的市場評価法)という2つの経済分析手法による評価・分析を行いました。

 

新築分譲マンションの募集価格を用いた経済分析(ヘドニックアプローチによる分析)

ヘドニックアプローチによる分析の結果、新築分譲マンションの募集価格について、東京都マンション環境性能表示や自治体版CASBEE(横浜市・川崎市)の届出があるものは、ヘドニックアプローチによる分析において、価格が数パーセント(0.4~5.9%)高いことが分かりました。

住宅購入予定者、オフィスワーカーの支払意思額の計測(CVMによる分析)

また、不動産ユーザ(住宅購入予定者やオフィスワーカー)を対象としたCVM(Contingent Valuation Method)による分析では、その価値観を支払い意思額で測定しましたが、住まいやオフィスにおける環境性能認証の取得のほか、住まいにおけるCO2削減、生物多様性の保全、緑景観の向上、オフィスビルにおける環境 負荷低減のいずれの項目に対しても、ユーザは一定の負担を支払う意思を表明していることが分かりました。総じて、環境不動産の付加価値 が高く評価されていることが推察されます。
 

DATA

海外における環境不動産の経済的価値に関する分析事例

米国では、LEEDとEnergy STARの認証を受けたビルを対象として、その認証の市場価値を分析している事例(Doing Well By Doing Good? Green Office Buildings, John M. Quigleyらによる論文)があります。
 

‘Doing Well by Doing Good?’ Green Office Buildings (Quigleyら, August 2009)


「Doing Well By Doing Good? Green Office Buildings」の概要
  • Energy STARとLEED認証を取得している物件の所在地に関する公開データと、商業データベースのある一般的ビルについて、その特徴とレンタルレート(賃料)に関する比較を行った。具体的には694のグリーンビルディング認証物件と、そこから1/4マイル(400m)以内の距離にあるノングリーンビルディング(一般的ビル)7,489物件について分析している。
  • 最小二乗法回帰モデルにより分析がなされている。
  • グリーンビルディングは、同じ地区内にある一般的ビル対比で、レント(賃料)に関しては約2%高いという体系的な証拠が明らかになった。
  • 実効賃料(effective rents:オフィスビルの入居率による調整を加えた賃料)については、グリーンビルディングの方が近隣の一般的ビルに比べて6%高いこともわかった。
  • 現行のキャップレートを用いて計算すると、7,489物件のノングリーンビルディングをグリーンビルディングに転換することによって上昇する収益は、それらのライフサイクルを通じて合計500万ドル以上となる計算である。

 

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