j048-Interview

PLATEAUを用いたMV制作「現実に近いけれど、現実ではないものを探していた」

2023年春に結成されたインディーズのクリエイティブ・テクノロジスト・コレクティブiaiaia(イアイアイア)。かれらがMVを手がけた「UNREAL feat.androp by EYE VDJ MASA」で映し出される街並みは、PLATEAUの3D都市データを用いたものだ。この映像で表現したかった「アンリアル」な世界観とは。iaiaiaのメンバーが辿った制作の軌跡を追う。

写真:
森 祐一朗
文・編集:
岡田麻沙
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  • 諸星 智也
    諸星 智也
    クリエイティブ・テクノロジスト / iaiaiaメンバー
  • 九鬼 慧太
    九鬼 慧太
    クリエイティブ・テクノロジスト / iaiaiaメンバー
  • 厚木 麻耶
    厚木 麻耶
    クリエイティブ・テクノロジスト / iaiaiaメンバー
  • 内山 裕弥
    内山 裕弥
    国土交通省 総合政策局 / 都市局 IT戦略企画調整官

現実に近いけれど、現実ではないものを探していた

ーー「UNREAL」というMUSIC VIDEOは、どのように制作されたのでしょうか?

諸星 このMVは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者を支援する一般社団法人WITH ALSの代表、武藤将胤さんに声をかけていただき、制作しました。ご自身がALS患者でもある武藤さんが作詞を手がけています。もともと健康だった武藤さんがある日突然、難病になってしまった体験を歌った歌でもありますが、「リアルだと思っていたものがアンリアルになってしまった体験は、誰にでもあるのではないか」ということがテーマです。
武藤さんと話しながら企画を煮詰めていくなかで、「そもそもMVはリアルではない」という話になりました。作為的なものだよね、と。そこで、MVのなかではアンリアルなものを描き、視聴者の目の前に広がっている世界こそがリアルである、という構造にしようと考えました。MVを観て、現実の世界を見て、そこで初めてリアルとアンリアルを対比できるという体験です。だから、この動画のなかにあるものは、3Dのシーンも含めてすべて現実のものではありません。

ーーアンリアルなものを描き出そうと決まったタイミングで、PLATEAUが候補に上がったのですか?

諸星 ここは試行錯誤がありました。AIの絵を入れようと決めてはいましたが、街中でアンリアルなものを表現するのは難しかった。なかなか、サビの開放感を引き立てるような絵をつくれませんでした。僕たちはファンタジーをつくりたいわけではなかったので、現実に近いラインの絵を探していました。現実に近いけれど、現実ではないものを探していた。
MVのなかにある白い線は視線を表現しています。武藤さんは体が動かないため、視線でデバイスに入力をすることでコミュニケーションをとります。VJやDJもなさっているのですが、それもすべて視線で実行しています。抽象的な白い線として表現することで、武藤さんの見ている世界で街の中を回遊できるような映像を目指しました。

「なにかやろう」「やりたい」

ーーみなさんは、普段もクリエイティブに関わるお仕事をされているのですか?

諸星 僕は普段、テクノロジーに強いプランナーとして仕事をしています。企画職は楽しいですが、さらに手を動かしたいという気持ちが高まり、今年の春に「iaiaia」を結成しました。

九鬼 僕は、企画もしつつ実装もする場面が多いです。Unity(ゲーム開発プラットフォーム)やHoudini(3DCGソフトウェア)などを触りながら、必要に応じて新しい技術を採り入れつつ作業をしています。

厚木 私は、学生の頃からopenFrameworks(コーディングのためのオープンソースツールキット)やTouchDesigner(ビジュアルプログラミング環境)を使ってCGをつくることが好きだったんです。でも最近はそれらに触れる機会が減ってしまい、そんななかで、2人から「なにかやろう」と声をかけてもらい、「やりたい」と返事をしました。

九鬼 それまで、お互いの存在を知ってはいたものの、役割が似ているので同じ案件に入ることがあまりなかったんです。でも、2022年の末に3人で一緒に仕事をすることができて、それが文化祭みたいでとても楽しくて、「またやりたいね」と話していました。

一緒に考えてやっていきたい

ーーPLATEAUの存在を知ったのはいつでしたか?

九鬼 2020年にローンチされた直後に、X(旧Twitter)のタイムラインで知りました。「国交省がこんなものを出した」とSNSで話題になっていた頃です。これはありがたいと思って、当初から使わせてもらっていました。でも、3年前は使いづらかった印象があって。だから、さっき内山さんがUnityのプラグインを見せてくれて、びっくりしました。

内山 当時は本当に使いづらかったと思います。あの頃は、FBX(異なるソフトウェア間での3Dデータの受け渡しに適したファイル形式)を出すということがどういうことなのか、わかっていませんでした。ローンチしてから現在まで、毎日X(旧Twitter)でPLATEAUの口コミを検索してフィードバックを得ています。実際に使ってくれた人がつぶやいている内容を見て、「なるほど、CGやゲームエンジンを使うにはこういうものが必要なんだ」「SDK(ソフトウェア開発キット)があったらいいのか」というふうに勉強している。だから、当時と比べると最近のPLATEAUは使いやすくなっているはずです。

九鬼 確かに、今回のMV制作で利用した際は、初期よりも使いやすかった気がします。以前使ったときよりも簡単にデータを取り込むことができました。前はメッシュコードごとにデータをダウンロードしていたので、渋谷エリアの番号を覚えていました。

※メッシュコード:メッシュデータの各区域に対し割り振られたコード。メッシュデータとは、地図上の情報をデジタル化したり各種統計情報をとるために地図上の経緯度方眼として定められた地域メッシュのこと

内山 かつては読み取りエラーが起きたり、データが大きすぎたりすることがありましたが、バージョンアップしています。今は逆に、FBXの配布をやめて、SDKを使って自分でエクスポートしてもらえるようになっています。ただ、ゲームエンジンを介してエクスポートをするという作業が面倒だと感じる人もいるようなので、今後はクリエイター向けに単体のコンバータをつくって、そこからパラメータで解像度などを設定できるといいのではないかと考えています。

諸星 そんなにドラスティックに動かれているんですね。

内山 クリエイターの人々と、一緒に考えてやっていきたいというスタンスで動いています。

ーー諸星さんと厚木さんも、当初からPLATEAUをご存知でしたか?

諸星 2020年ローンチ当初から知ってはいたけれど、なかなか触れる機会はなかったです。「UNREAL」という今回のMVのテーマでは、仮想空間だけどリアルなものを描くことを目指していたので、そうした世界観とPLATEAUのデータとの親和性は高かったです。それにしても、初めて使用してみて、予想よりもデータが精細なので驚きました。

厚木 X(旧Twitter)のタイムラインに流れてくる情報を見ていたため、ローンチされた当時から知っていましたが、今回のMVで使用するまで、自分自身では触ったことがありませんでした。でも、YouTubeに使い方を上げてくれている人がいて、ありがたかったですね。多くの人が使っているから、さまざまな情報を拾えて、その意味ではやりやすかったです。ただ、作業するPCのスペックは高い方がいいと思いました。

PLATEAUのなかをロケハンする

ーーMVでは都市の風景がとても綺麗に描写されていますが、制作において苦労された点はどのようなことでしたか?

諸星 ライティングには苦労しました。PLATEAUのデータは形が綺麗だし、少し離れた場所からだとテクスチャもリアルなのですが、近づくと「テクスチャー感」が強い場所もあります。そういうポイントではカメラワークでうまく繋いだり、光を調整して馴染ませていったりする必要がありました。

それから、地面をどうするかという問題がありました。地面は、国土地理院の航空画像を持ってきて、少し照度を落として当てています。位置合わせは手作業でおこないました。

基本的には、絵ありきの構成です。PLATEAUのなかを3人でロケハンしながら、「この場所がよさそうだ」「こういうふうにカメラアングルを振ったらうまくいきそう」「でもこのパターンはさっきも使ったよね」みたいなことを言い合って、つくりあげていきました。

ーー3D都市データのなかをロケハンする、というのは新しい感じがします

厚木 そうですね。みんなで、それぞれのパソコンを使ってロケハンをしていました。

諸星 歩かなくていいので、たまに今どこにいるのかわからなくなるんです。「とてもよかったのに二度と見つけられない画角」も多くありました。

地方のデータの方が圧倒的に多い

ーーiaiaiaのみなさんがPLATEAUで知りたいことを教えてください

九鬼 映像で使用する場合に、遠景をどうするかという点は悩ましかったです。今回のMVは渋谷で、高いビルが多かったので助かったのですが、それ以外の街並みを使用するときに遠景がまったくないと、浮いてしまう感じがありました。

内山 遠景については、LOD1(箱モデル)を超広域で読み込むという方法だと、比較的データとしても重くならずに扱えます。遠くの方になにかそれらしいビルがある、という表現ならこれで対応できます。

あるいは、WebストリーミングでPLATEAUを表示するというやり方もあります。この場合、最適化された比較的軽いデータが表示できます。

九鬼 なるほど……。あとは、今回使用した渋谷のようなランドマークのある都市ではなく、もう少しアノニマスな場所を扱ってみたいという思いもあります。現実の街並みと連携するコンテンツをつくっていきたいです。

内山 LOD2(屋根や壁などを再現したモデル)のデータも多くの都市で整備されています。広域で整備されているところだと、たとえば愛知県岡崎市など。でも、こうした場所を探しあてるのは大変ですよね。実はPLATEAUのデータは、割合としては地方の方が圧倒的に多いんです。地方自治体が、自分たちのまちづくりや防災ためにデータをつくるというケースですね。そのため、アノニマスな場所も多くありますよ。これらは時系列のデータにもなっており、2020年、2021年、2022年のデータを比較すると街の変化がわかるはずです。

諸星 本当はアイレベルの絵を撮りたかったのですが、今回、地面の表現などの関係であまり視点を下げられませんでした。アイレベルで使えるデータや屋内のデータがあると、活用イメージが膨らむと思いました。

内山 アイレベルでの利用だと、LOD3(LOD2をさらに詳細に表現し、開口部や立体交差などを表現できるようにしたモデル)では、ドアや窓などの開口部、道路の立体交差なども表現されているので、絵としてはかなり使えるものになっていると思います。たとえば例えば静岡県沼津市などで整備されていますね。屋内については、LOD4(建物の内部までモデル化したもの)という最もハイレベルなデータがそれです。基本は設計情報なのであまり世の中に出回らないのですが、東京ポートシティ竹芝のLOD4建築物モデルは公開されています。今年はまた、いくつか屋内モデル付きのデータが増えていくと思います。

厚木 私は、PLATEAUで渋谷やお台場などを探索するのが楽しかったので、自分の地元である栃木市のデータも眺めてみたいなという気持ちになりました。

内山 確かに、宇都宮市はありますが、栃木市のデータはまだないですね。PLATEAUには補助制度があって、自治体が自律的に3D都市モデルのデータをつくろうとする取組みを支援しています。意外かもしれませんが、100k㎡の3D都市モデルの整備が300〜500万円ぐらいから実現できるなど、整備コストはそこまで高くありません。PLATEAUの取組みは国だけでなく、自治体や民間企業と連携して進めることが重要で、そのために多くの自治体とさまざまな切り口で議論を進めているところです。だから、厚木さんがPLATEAUで地元を探索できる日も、そう遠くないかもしれませんね。