災害大国日本。四季があり、世界が羨む美しい自然を持つ日本の国土は、一方で地形・地質・気象等の特性により災害に対し脆弱で、極めて厳しい自然条件にある。例えば、細長い国土の中に2000mを超える山々が連なり、国土の70%を占めるといわれるこれらの山岳地帯は崩落しやすい地質等で構成されている。そこから流れ出る河川は急勾配で洪水を起こしやすい。
また降雨は梅雨時期から台風期に集中。さらに東京をはじめとするほとんどの大都市は河川の氾濫区域に存在し、その多くが軟弱地盤の上にある。加えて世界のマグニチュード6超の地震の約2割は日本で発生し、活火山の約1割が日本に集中している。
このような「脆弱国土」である日本は更なる危機を迎えようとしている。今後30年の間に約70%の確率で発生するとされている南海トラフ地震と首都直下地震だ。南海トラフにおいて想定される最大クラスの地震では、太平洋沿岸の広範囲において強い揺れが発生し、巨大な津波が短時間で沿岸に襲来。最大で死者は約32万人、経済的な被害は約220兆円にのぼり、交通インフラの途絶や沿岸の都市機能の麻痺等の深刻な事態も想定される。
また首都直下地震では、首都圏全域に強い揺れが発生し、最大で死者は約2万3千人、被害額は約96兆円になるなど、甚大な被害の発生が予想されている。
このような災害が起これば、経済の機能は麻痺し、国家的危機に陥ることは必至だ。脆弱な国土を有する日本において、河川、道路、海岸、港湾など多岐にわたるインフラを最大限活用し、自然災害の脅威から国民の命と暮らしを守ることが求められている。
豪雨による洪水や土砂災害、地震、津波、高潮、火山噴火など、あらゆる自然災害から国民の命、財産を確実に守るためには、ハード対策により被害を未然に防止することが重要です。例えば、水害対策として大河川の堤防整備と併せて雨水排除に特化した下水道や貯留施設を整備しつつ、各家庭に浸透ますを設置してもらうなど、官民一体となった流域全体での治水対策が進められています。また住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率の目標を定め、建築物の耐震化に対する支援、指導等の強化により計画的な耐震化の促進を図っています。
「過去最大の雨量を観測」というニュースが、全国から毎年のように聞こえてきます。激甚化する自然災害をハード対策だけで防ぎきることはできません。被害を最小限におさえるため、避難体制の構築やまちづくりとの連携などのソフト対策を推進しています。「想定しうる最大クラス」の豪雨による浸水範囲や避難場所などを示したハザードマップを作成し、災害リスクを地域と共有するとともに、災害時に国・市町村・住民などの関係者が事前にとるべき行動を時系列で示したタイムラインの策定を全国ですすめています。また高性能の気象レーダーを活用し、瞬時に洪水予測を地域住民へ連絡する仕組みづくりなど、ICTを活用した新たな対策を行っています。
切迫する南海トラフ地震、首都直下地震。これら巨大地震への「事前の備え」は必要不可欠です。国土交通省ではこれら2つの地震の対策計画を策定し、発災時の応急活動と発災に備えた事前の対策の両面から、対策計画にもとづく取組みを推進しています。例えば、災害対応の迅速化にむけ、膨大な被害情報を集約し、Web地図上に分かりやすく表示する新たなシステムの導入や、首都直下地震発災後の救命活動や復旧を支えるため、発災時に都心へ向かって八方向から同時に進行する道路啓開体制の構築を進めています。