社会資本整備や地域づくりは、本来、国民と行政との協働、共創作業である。人の生活と自然との関係、社会資本と地域文化との関係まで視野に入れた深みのあるコミュニケーションの推進を通じて、国民と行政との信頼関係の下で、良質な社会資本が蓄積されていく必要がある。 このためには、所管行政全般にわたり、 多様化するニーズを早期に把握する努力が十分でなかったのではないか 国民の中にある価値観の対立等について問いかけが十分でなかったのではないか 事業や施策の評価が十分でなかったのではないか 行政は国民へのサービスであるという視点を常に念頭においていたか 等の視点から総点検するとともに、個々の批判に応えることを超えて、行政の発想やあるべき姿にまで立ち返ったより抜本的な対応が求められている。 このような観点から、建設省では、国民と行政とのコミュニケーションを一層重視した行政の考え方をここに明確にし、行政全般に一般化し、必要な政策・制度の改革、行政に携わる者の資質の向上、意識改革等にさらに積極的に取り組むこととするものである。
ここでは、国民とのコミュニケーション(「国民とのコミュニケーション」とは、建設省が所管する行政全般における情報提供、施策説明、要望や効果の把握その他のコミュニケーションに関わる活動のすべてをいう。以下同じ。)の意義を明らかにし、一連の改革活動への原動力を与える。 (1)国民の満足度の把握、向上 公共財である社会資本や行政施策は、基本的にはマーケットによる競争にさらされることはない。そのため、国民とのコミュニケーションの推進によって、施策の方向や行政サービスがニーズと合っているのか、効果的、効率的な提供が行われているか等を評価し、所管の行政サービスに対する国民の満足度(以下、CS(Customer Satisfaction)という。)を向上させていかなければならない。 (2)社会的合意の円滑な形成 社会資本整備や地域づくりは、国民と行政とのコミュニケーションの推進によって、行政の持つ情報を公開し、行政の透明性を高め、行政の説明責任(アカウンタビリティ)を果たしながら、国民とともに考え、衆知を集め、社会的な合意(以下、PA(Public Acceptance)という。)を円滑に形成しつつ進められるものであり、これらの過程を経てCSが向上していくものである。 (3)行政に携わる者の意識改革 国民とのコミュニケーションの推進は、行政サービスの現場や国民との接点を重視させ、実効性の高い施策等の基礎となるとともに、自らの職務の社会的な意義を再認識させ、資質の向上、意識改革の動機付けともなるものである。行政に携わる者は、行政としての専門性、先導性を発揮することが必要であり、その自己実現ややりがい(以下、ES(Employee Satisfaction)という。)は、国民とのコミュニケーションによって具体化されることなる。
第一の意義を踏まえ、実際にコミュニケーションを行うに当たり共通する基本的事項を整理する。 (1)正確さ、迅速さ、分かりやすさ、入手しやすさへの配慮 国民と行政とのコミュニケーションにおいて、行政の持つ情報、考え方等を国民に広く知ってもらうことが必要であり、その際、正確さ、迅速さ、分かりやすさ、情報の入手しやすさ(アクセシビリティ)に配慮することが大切である。また、近年のあふれる情報の中では興味をもたれるように工夫することも必要である。 (2)双方向の継続的なコミュニケーション 国民とのコミュニケーションは、双方向の継続的なものでなければ、多様なニーズや事業の実施による効果を的確に把握できない。双方向の継続的なコミュニケーションを通して、可能な限り情報を国民と共有し、国民と行政との信頼関係を確かなものとしていくことが大切である。 (3)現地の状況を踏まえた多様な主体との連携 地域ごとに社会資本の整備状況並びに自然的、経済的、社会的及び文化的状況は異なるものであり、これら現地の状況を踏まえ、他省庁、地方公共団体(議会含む。)、国民、非営利組織(以下、NPO(Non-Profit-Organization)という。)、経済界、マスコミ等との多様な連携を行うことがコミュニケーションの効果を高める。また、学校教育、生涯学習等を通して諸活動を展開する等幅広い世代に対してコミュニケーションを図ることが大切である。 (4)政策の背景にある考え方の明確化 人の生活や自然環境と社会資本との関わり等新たな投資や行政施策の背景にある考え方を明確にし、可能な限り分かりやすくしておくことが国民とのコミュニケーションにおいて大切である。また国民と直接接する職員が、それらの内容について的確に説明できることが必要である。
上記の第一、第二を踏まえ、建設省が実施する主要なコミュニケーション関連の取り組みを以下に示す。 1.公共事業・施設管理、地域づくりにおける国民との協働、共創 公共事業・施設管理、地域づくりにおける国民との協働、共創の視点から以下の取り組みを行う。 (1)施策の目標や社会資本の整備水準等について国民とともに考えていく方式を積極的に活用する。 施策の目標や社会資本の整備水準等について、計画段階から国民とともに考えていく方式(道路五カ年計画策定にあたり実施したPI(Public Involvement)方式等)を積極的に活用する。 [事例1] その際、施策等の政策決定において、国民が政策形成に向けた議論等を行う上で必要となる基礎的な情報を示し、論点や課題を整理した上で伝え、特定の施策等を実施しないことも含めた多様な選択肢をそれぞれの得失等とともにわかりやすく説明することに努める。 コミュニケーションの視点から、都市計画決定手続き等における各種公聴会等の既存制度運用の把握等を行うとともに、新たに法制度化された河川整備計画や環境影響評価における関係制度を適切に運用する。さらに、社会資本の整備等に際して国民の意見を反映させるシステムの検討を進める。 [事例2] これらの場合に、事業の特性(目的、緊急性、影響の範囲等)や段階等に応じた国民の関与のあり方にも留意する。 (2)関係者の協力の下、現地で試行し評価を踏まえて本格実施等を検討する社会実験手法を積極的に活用する。 制度、システムの確立に一定の時間を要する行政施策を補完し、また、施策の効果を把握しつつ関係者の合意形成を進めるため、「期限を限定して実際に現地で試行し、評価を踏まえて本格実施(もしくは中止等)に移行する手法(社会実験)」の実施要領を作成し、積極的に活用する。 [事例3] (3)国、地方公共団体、経済界、NPO等多様な主体間のパートナーシップを構築する。 省庁の地方支分部局、都道府県、経済界等の地域づくりに関わる主体が、様々な立場から、現地の状況を踏まえつつ、地方ブロック全体のビジョン及びそのビジョンを実現するための戦略について検討する場として、地域整備ブロック戦略会議(仮称)(以下、地域会議という。)を設置する。 地域会議が行う国民とのコミュニケーションを通して、ビジョン等に関する国民と行政等との共通認識を形成し、関係者の緊密な連携による広域的な地域づくりの実効性を向上させる。 [事例4] 国民と直接接する地方出先機関等において、環境、福祉等各分野のNPO等と幅広く、積極的かつ継続的にコミュニケーションを行い、種々の行政ニーズを早期に把握する。 [事例5]、[事例6] 積極的に地域に出向き、施策の説明や質疑応答等に努める。 [事例7] 災害危険個所の日常点検や美化等の平時の施設管理において、国民参加を推進する。 [事例8] 交通関係、まちづくり関係の各種アドバイザーやNPO活動の支援システムを構築する。 [事例9] 2.アカウンタビリティの向上 アカウンタビリティ向上の観点から、以下の取り組みを行う。わかりやすい情報を適切な形で提供すること、国民に対して十分説明できる方法で実施することを柱として公共事業のアカウンタビリティ向上に関する行動指針をとりまとめる。 (1)我が国の脆弱な国土条件と社会資本整備との関係について国民と行政との情報の共有を進める。 地震、台風・梅雨、火山活動、豪雪、軟弱地盤等による自然災害が多く、また地籍の確定が遅れている等の国土条件について、国民と行政との関連情報の共有を進め、社会資本整備に関する国民とのコミュニケーションの基盤を形成する。 社会資本整備の費用と効果について、我が国の特殊な国土条件を踏まえて分かりやすく説明する。 (2)政策評価システムを構築する。 公共事業の効率性及び透明性の一層の向上を図るため、新規事業採択時点及び採択後一定期間を経た時点において、「建設省所管公共事業の再評価実施要領」等に基づき、費用対効果分析を含めた総合的な評価を本格的に実施し、適当と認められない場合には事業を不採択又は中止若しくは休止する。 完成した事業の事後評価について平成10年度内に基本的な考え方を構築し、早期の導入を図るとともに、事業評価の充実に向け検討を進める。 [事例10] 事業や施策等の政策評価結果を行政過程の各段階にフィードバックし、国民の満足度の向上につなげるシステムの構築を検討する。 既存の社会資本ストックの更新も含めた合理的な投資及び国民へのわかりやすい説明に資するため、企業会計的な考え方の応用を検討する。 (3)公共事業における事業採択、入札・契約制度等事業実施過程全般に関する透明性を一層向上させる。 各種事業の採択基準及び採択結果並びに事業実施予定等について公表する。 建設業者の経営事項審査の結果や等級を公表するとともに、公共工事については予定価格に加えて、積算内訳の事後公表を行う。 指名基準等の策定及び公表や入札経過及び結果の公表等の定着・浸透を図る。 事業評価や入札について、外部委員による監視委員会等の運用強化を図る。 公共事業の現場を国民とのコミュニケーションの場と捉え、分かりやすい説明を徹底する。 3.開かれたサービス機能の充実 行政サービスの現場や国民との接点を重視し、国民の意見を政策に反映させる体制の整備、人材の育成の視点から以下の取り組みを行う。 (1)国民の意見を政策に反映させる体制を整備する。 国民からの問合わせや苦情等を行政ニーズを把握できる機会と捉え、「道の相談室」、「土砂災害110番」、「技術開発相談室」を設置するほか、建設省ホームページにおける「提案コーナー」の活用や対応の充実を図る等全省的に取組みを強化する。 窓口対応の改善を職場単位で積極的に行う等行政相談機能を充実させる。 インターネットの利用、公共事業の現地見学の実施等を通し、国民等との継続的な情報交換を行い、ニーズやアイデア等を広く集めるシステムを構築する。 [事例11] 既存のコミュニケーションに関わる活動(施策等のニーズ把握、各種説明資料・広報誌、取材への対応、地元説明会、現場見学会、各種式典等)を総点検する。 (2)コミュニケーション能力の向上に資する人材育成を実施する。 人材育成の体系に、わかりやすく説明する、関係者の意見を反映する等、コミュニケーション能力の重要性を明確に位置付ける。 建設大学校及び各地方建設局等においてコミュニケーション能力を強化するための研修を体系的に実施する。 [事例12] 国民と直接接する職務の現場での実体験、省内外における多様な職務経験を通し、コミュニケーション能力の向上に資する人材育成等を積極的に実施する。 民間企業への研修を促進する。また、ボランティア活動への参加等多様な社会活動の体験を奨励する。 4.コミュニケーション型行政を支える研究開発等の推進 コミュニケーション型行政を支えるため、関連する研究開発を進めるとともに、研究開発自体についても、多様な連携や情報公開等以下の取り組みを行う。 (1)コミュニケーション関連手法・基盤の研究開発を推進する。 国民への施策説明、PI手法等によるニーズ把握、円滑な社会的合意の形成、国民の満足度の評価等コミュニケーション関連の手法やシステムの研究開発を推進する。 建設CALS/EC(生産・調達・運用支援統合情報システム/電子商取引)、GIS(地理情報システム)等、コミュニケーションの推進に必要な情報基盤に係る研究開発を推進する。 [事例13] (2)研究開発について多様な連携等を推進する。 研究開発の効率的・効果的な推進を図るため、外部による評価結果の公開や、産学を通じた多様な人材の交流を促進する。 GIS、ITS(高度道路交通システム)等の新たな技術やシステムの研究開発において、国際標準化活動の支援、諸外国の政府及び研究機関等との共同研究等、国際連携を推進する。 国土の整備、利用及び保全に関わる技術は国民共通の資産であり、これらについて国民にわかりやすく説明し、理解を深めてもらうため、体験・参加・学習型の技術共有の場づくりを推進する。 [事例14]
ここでは、コミュニケーション型行政の創造に向けた活動の基本方式、推進体制等を示す。 1.改革活動の基本方式 幹部のリーダーシップの下、組織の中堅をなす層(業務等の遂行に当たり、組織のトップから一般職員にいたる幅広い層と直接接する層)の積極的な取り組みを上下に押し広げていく方式(「ミドルアップ・アンド・ダウン方式」)を活動の基本方式として展開し、組織内への効果的な浸透を図る。 [事例15] この中で職員の1人1人がしっかり動機付けられ、コミュニケーション型行政の考え方を自分のものとし、その潜在的な能力が十分に発揮され、自己実現へとつながっていくことを目指す。 2.推進体制等 「コミュニケーション推進委員会(委員長:事務次官)」において定める基本方針にそって、コミュニケーション型行政を体系的かつ積極的に実施する。 本省内部部局及び地方部局等(地方建設局等)において、組織単位に活動方針を定め、できることから積極的に実施する。 [事例16] 一連の活動の省内向けの情報誌を発刊し、本省、地方部局等におけるモデル的な活動の紹介、企業等の変革事例の紹介、幹部からのメッセージの掲載等を行うことによって、各組織における取り組みを支援する。 担当業務以外についても、幅広く意見を交わせる省内ネットワークシステムの開設を検討する。 地方公共団体等に検討状況を周知し、協調しつつ進める。 関連する諸情勢の変化に合わせ、内容を適宜見直すとともに、実施状況の的確なフォローアップに努める。 [参考図]