海事

造船業の国際競争力の強化

 四面を海に囲まれ、資源等の大半を海外からの輸入に依存する我が国は、貿易や産業基幹物資の国内物流の多くを海上輸送に依存しております。造船業は、ニーズに合わせた船舶の安定的な供給という形で海上輸送を支えており、我が国の経済社会の発展等のために必要不可欠です。
 また、我が国の造船所は資機材の9割超を国内から調達し、多数の舶用メーカーや協力事業者等とも密接に関連した海事クラスターを形成しており、地域の雇用創出、経済発展に中核的な役割を果たしております(船価の3倍の経済波及効果)。
 さらに、造船業は我が国の安全保障・海上警備を支える艦艇・巡視船を全て建造・修繕しており、我が国の安全保障にも欠くべからざる重要な産業です。
 このように、造船業は、国民生活の安定や経済活動の発展を支える我が国の経済安全保障の確保と海上防衛・警備等の安全保障の両面において極めて重要な産業であり、今後もこれら社会的役割を果たすことが重要です。




 一方で、船舶は世界単一市場の製品であり、我が国造船業は非常に厳しい国際競争にさらされてきました。
 我が国造船業は、1956年に欧州を抜いて世界シェア1位になって以降、1990年代初めまで約5割の高い建造量シェアを有しておりました。1990年代に入り韓国、2000年代に入り中国が台頭し、世界的な供給過剰状態が続く中、国際海運における環境規制の適用開始前の駆け込み受注の反動から、2016年には世界的に受注が激減し、その後は低水準で推移しています。日本も含めた3か国で世界の9割のシェアを占める中、日本は、足元では建造量シェア約2割、世界3位となっております。
 そのような中、中国では国営造船所が統合され、韓国では経営不振に陥った大手造船企業に巨額の公的資金が投入されるとともに大手企業同士の統合が合意されるなど、我が国造船業にとって、国際競争環境は益々厳しくなっております。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行は、国際的な人流・物流、新造船商談の停滞を引き起こしており、我が国造船業の手持ち工事量は危機的な状況まで落込んでおりました。足元では、回復の兆しがあるものの、依然として世界的な供給能力過剰状態にあり、中国・韓国との厳しい受注競争が続くことが予想されます。
 また、我が国は、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標としており、海運からの温室効果ガス(GHG)の排出削減が社会的な要請となっております。造船業としても船舶の低炭素化・脱炭素化等により、こうした社会的な要請に応えることが必要です。
 このような中、我が国造船業が基幹産業として持続的に発展するためには、省エネ性能等の性能や品質などの強みを活かしながら、社会的要請や海運のニーズにいち早く対応していく必要があります。
 国土交通省では、短期的視点で取組むべき施策及び中長期的視点で取組むべき施策の両面から我が国造船業の国際競争力強化に取り組んでおります。

短期的視点で取組むべき施策

○造船業の基盤強化


企業間の集約、統合、協業等の促進及び生産性の向上
 我が国造船事業者は、長い歴史を持ち、地域に根差した産業として発展してきており、比較的近年になって大規模の施設整備が行われた中国、韓国に比較して拠点ごとの規模が小さい特徴があります。そのような中、中国、韓国においては大手造船所同士の統合等による更なる大規模化の動きが進展しております。
 必ずしも規模の大きさのみが競争力の決定要因ではありませんが、資機材の調達時に優位性が生じ得るほか、技術者等リソースの柔軟な運用が可能になるなどの効果が見込まれるほか、近年増加している同仕様の船舶を短納期で多数発注する「ロット発注」への対応のためには一定の規模が必要となります。
 一方、日本の造船事業者においても、近年業界再編が進んでおり、複数事業者の連携による超大型コンテナ船のロット発注を獲得するなど、規模面の課題の克服に成功した事例も出てきております。
 我が国造船業が熾烈な国際競争に対応するためには、研究開発、技術開発や営業、設計、建造等の各ステージにおける能力強化を図り、生産性向上・コスト競争力強化に結実させるため、企業の垣根を越えた協業や集約や統合等を進めていく必要があります。
 こうした状況を踏まえ、国土交通省では、生産性向上や事業再編を通じた事業基盤の強化を促進するため、2021年5月に公布された「海事産業強化法」に基づき、造船・舶用工業事業者による事業基盤強化に係る計画(事業基盤強化計画)を認定し、税制面・ファイナンス面の支援措置を講じる制度(事業基盤強化計画認定制度)を創設しました。(詳細リンクhttps://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk5_000068.html
 また、我が国造船業の競争力強化のためには、デジタル技術を活用し、造船所の工程横断的な生産性向上及びライフサイクル全体を視野に入れた新たなビジネスモデルに進出する「DX造船所」の実現や、造船・舶用の垣根を越えたサプライチェーンの最適化等が求められるところ、国土交通省として実証等によりその早期実現を後押ししております。
 これらの取組を通じ、2025年において、我が国の造船業の生産性を2割向上(従業員一人当たり新造船建造量、2019年比)させるとともに、1,800万総トンの船舶を建造することを目標としております。

 

○建造需要の喚起、受注促進


 我が国造船業の主たる船舶供給先は我が国海運業であり、我が国の海運事業者が高性能・高品質な船舶の発注を促進することは、我が国造船業への建造需要の喚起にも繋がります。このため、我が国商船隊の高性能・高品質な船舶の導入を促進し、新造船発注を喚起する環境を整備することで、海運・造船の両輪での国際競争力の強化が可能となります。
 そこで、国土交通省では、事業基盤強化計画の認定を受けた造船事業者が建造した、安全・環境性能等について一定以上の性能を有する高品質な船舶を「特定船舶」とし、海運業者が策定した特定船舶を導入する計画(特定船舶導入計画)を認定する制度(特定船舶導入計画認定制度)を新たに創設しました。特定船舶導入計画の認定を受けることにより、税制面・ファイナンス面の支援等により海運事業者の競争力強化や新造船の発注の喚起を図ると同時に、造船事業者の事業基盤強化計画作成・認定の取得の取組を促す効果も見込んでおります。(詳細リンクhttps://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk5_000068.html


  事業基盤強化計画・特定船舶導入計画(海事産業強化法)

官公庁船の建造や輸出の促進
 我が国の艦艇・巡視船は、その全てが我が国造船所において建造及び修繕されております。加えて、我が国造船業は、米国海軍の艦艇の定期整備などを通じて日米同盟の安定にも貢献しております。さらに、独立行政法人海技教育機構や地方自治体の練習船、漁業取締船、資源調査船等を含めた官公庁船の建造等も担っており、これらの船舶における活動を安定的に確保するためにも、我が国造船所は重要な役割を担っております。
 他方で、我が国造船業は、市況の変動が大きな一般商船の分野で熾烈な国際競争に晒されており、これら官公庁船の需要は、我が国造船業の下支えとなる基盤的な需要として重要なものです。
 このため、艦艇・巡視船をはじめとした官公庁船の計画的な発注・建造がなされることが重要です。また、官公庁船分野の国内需要は限られるため、これに加えて、海外の需要を取り込むことも重要であり、「自由で開かれたインド太平洋」の実現の一環として、東南アジアや太平洋島諸国を中心に、我が国の造船技術を活用した海上保安能力向上等の支援をODAを活用した官公庁船等の供与により行っております。加えて、今後はODA案件に限らず、官民連携して案件形成を行い、更なる官公庁船等の受注獲得にも取り組んでいくこととしております。

中長期的視点で取組むべき施策

○技術開発、研究開発への取組


2050年カーボンニュートラルに向けたガス燃料船の開発・普及
 「2050年カーボンニュートラル」を掲げる我が国は、日本国内における排出量だけでなく、国際海事機関(IMO)において統一的にGHG排出対策が進められている国際海運(国別の排出量とは別に計上)についても「2050年カーボンニュートラル」を目指しております。

 この2050年の目標達成には設計・運航両面での省エネ技術を継続・強化するだけではなく、低・脱炭素の代替燃料や革新的な推進技術の導入が必要となります。外航船の寿命を20年以上と仮定すると、水素やアンモニア等を燃料とするゼロエミッション船を2030年前後から市場に投入していく必要があります。こうした船舶の開発は今後の我が国造船業の国際競争力を左右する最も重要な分野であり、官民を挙げて取組を進めていく必要があります。このために、水素燃料船やアンモニア燃料船の世界に先駆けた実用化を目指して、グリーンイノベーション基金を活用した開発・実証を進めております。

 また、LNG燃料船は熱量当たり燃料体積が重油と比べて大きいことや、沸点がマイナスのため常温で気体であるなど、水素・アンモニアといったガス燃料と共通の特徴があり、世界に先駆けて水素・アンモニア燃料船等の早期導入を図るためには、LNG燃料船で技術力を蓄積することが重要です。また、将来的にカーボンリサイクルメタンの供給が現実的になった際には、LNG燃料船や陸側の燃料供給のインフラ整備がそのまま転用可能となり、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に欠かせないことから、国土交通省では、引き続きLNG燃料船の普及促進にも取り組んでおります。

日本版システムインテグレーターの実現
 船舶のデジタル化が進み、建造方法が大きく変化し始めており、造船所への舶用工業機器の提供方法も、個別の操船機器を造船所に提供する形から、各種機器を統合し操船機能全体をまとめたシステムとして提供する形にシフトしつつあります。
 このような船舶のデジタル化の進展に伴い、複雑化・高度化する船舶システム全体を設計し、設備・機器等を統合するシステムインテグレーターが欧州において台頭しつつある状況に鑑み、日本の海運産業が今後の国際競争を勝ち抜くために、造船事業者、海運事業者、IT企業等の集約・連携を促進することにより日本版システムインテグレーターの実現を進めております。




人材の確保・育成 
 造船業においては、現場で船づくりを支える技能者と、技術開発や設計を支える技術者の確保が重要です。技能者の育成については、国、地方自治体、日本財団、日本海事協会等が設立・運営支援を行った造船技能研修センターを活用して造船会社が共同で研修を行ってきており、その結果として、造船業における技能者は順調に世代交代が進んでおります。高齢化が深刻化する他製造業に比べ比較的円滑に人材確保が進んでおり、今後とも取組を進めてまいります。

 一方で、我が国の造船技術者は、大学・大学院において造船工学を修得した人材が中心となっていますが、造船に特化した専門課程は減少してきております。こうした中、国としては、これまで大学等の教員と造船所が連携した円滑なインターンシップ実施のためのガイダンスの作成や、海洋開発分野における教育カリキュラムや教材等の開発に取組んできたところ、今後も官民連携しての支援を行ってまいります。

 また、現場労働力の確保を図る観点から、造船業においては、2015年より約3年間の技能実習を修了した外国人材を受け入れる「外国人造船修了者受入れ事業」を実施(新規の受入れは2021年3月末で終了)し、さらに我が国における深刻な人手不足に対応するために、2019年4月、出入国管理及び難民認定法が改正され、新たな外国人材の受け入れを行う「特定技能制度」が創設されました。現在、多数の特定技能外国人が造船業の現場で就労しています。今後とも、特定技能制度の活用等を通じて外国人材の適正な受け入れを確保してまいります。

造船業が目標とする具体的指標及び数値

 我が国造船業の国際競争力を向上させるために、上記の通り、短期的視点及び中長期的視点での施策を実施していくところ、我が国造船業が目標とすべき具体的指標及び数値として下記の3つを設定いたしました。

[1]我が国造船業の船舶建造量: 18百万総トン(2025年)

[2]我が国造船業の建造生産性: 2025年までに2割向上(2019年比)




[3]我が国造船業等の付加価値生産性: 2025年までに10%向上(2019年比)


お問い合わせ先

国土交通省 海事局 船舶産業課
電話 :(03)5253-8111
直通 :(03)5253-8634
ファックス :(03)5253-1644

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